イナGO

□気にする
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仲間で友達で、でもそれ以上でなく、それ以下でもない。
好きになるだけ。
付き合えなくても好きな人が幸せならそれでいいのかもしれない。

「マサキくん、」
隣の席の女子に声をかけられて慌てた。
先生に当てられてるのに聞こえてないみたいなんだもん、大丈夫?
覗き込んでくる顔が煙たくて
「へーき、で何当てられたの?」
って聞いて退けさせる。

このやりとりの間、教卓から送られてくる実にイライラした視線を無視して、教えてもらった教科書のページの文字を抑揚を付けないように気を付けながら平坦な調子で音読した。

古典文学なんて知るかよ。
前回の授業でこの先生は古典文学には現代では失われてしまっている美しい言葉とその民族や、地域の生き方が書かれているとかなんとか言ってたのを思い出して読むのがより一層億劫になる。
まぁどうせこんな面倒な漢字の羅列されてましてや、今じゃもう使われてないような言葉だって得意気に居座る文、読みこなしてやるものかと思う。

だいたい俺は漢字とか苦手中の苦手なんだし、普通にテンポよく進めたんじゃね?とか気を抜けばまた間違える。
そのたびに先生はため息を吐いて誰か、教えてやれという。
それならもういっそのこと次の奴を当てればいいのにこの頑固オヤジめ!
とか、俺はこのたった一段落読むのにどれだけの労力使うんだよ!とか、先生にも自分にも内心悪態をつきながらなんとか読み終えて音を立てて座る。

先生が教科名簿に何か善からぬことを書き込み終わるのを待って次の奴が読み始める。
あと20分はある授業時間は、さっきフル回転させた頭を休めるためにぼーっとしたり居眠りをすることにしていたのに
「松風、松風、おい、」
「天馬ぁ、天馬起きてよー」
っといった具合に先生としんすけくんが天馬くんを起こす声に現実へ引き戻された。
横を見れば完全に潰れて寝ている天馬くん。
なんだぁ、天馬くんも授業ちゃんと受けてないんだ。

そういうとこに仲間意識を持つ自分を恥ずかしく思った。
むくりと起き上がった天馬くんの耳には信助くんの声は届いているのだろうか?
いや、たぶん届いていない。
教科を逆さに持って一枚一枚ていねいに捲っていく。
いったい何時になったら目的のページへとたどり着くのだろうか…。
小学一年生の授業参観に来た親の心情を容易に想像できる状態の自分がいる。
本当に親ならば見兼ねて手を出してしまうところだろうが俺はやらない。
それはたぶん信助くんの仕事。

思った通り天馬くんから教科書を取り上げて向きを直し、ページを開いて渡してあげてる。
あー恥ずかしい。
「46ページの4行目だよー」
まだまだ寝ぼけている天馬くんの音読は実に愉快で、それでいて恥ずかしかった。

漢字の読み間違いはお手のもの、読み方のわからないところは急ブレーキ。
それより愉快で愉快で仕方なかったのは一行丸々飛ばして読んでみたり、飛ばしたことに気が付くと、わけのわからない繋ぎ方をして無理にでも読もうとしていたこと。
これにはさすがの先生もお手上げ状態で、読みたいように読ませてやっていた。
代わりに信助くんが読み直しさせてたけど…。
一段落が長いところを天馬くんに当てるのは間違ってもしない。
きっと先生の頭のメモにそう書き込まれたはずだ。

「もう、天馬ぁ授業中ほとんど寝てたでしょ」
授業後すぐに信助くんが笑うのを聞きながら、答えをある程度予想した質問をする
「朝練なかったのに何でそんなに眠いんだよ?」
「えへへ、ちょっとね」
恥ずかしそうに笑った顔から察するに予想は的中してしまったようだと肩を落とす。
ならばもっと確信めいた質問をしてみても罰は当たらないだろうと次の質問に爆弾をセットしていると、信助くんからの子供らしい質問に一発で解除されてしまった。
「夜遊び?」
なんて子供らしいんだと感動を覚える質問。
天馬くんは真面目な顔になって「そんなんじゃないよ」って答える。
俺はそんな答えよりもその後に続いた「たぶん?」の方をしっかり聞いていた。

「たぶんかぁ」ぼそりと呟いてやると天馬くんは
「あれは遊びじゃないよ!たぶんじゃないよね!」って満足気に頷いた。
羨ましいよ剣城くん。
ヤルとこまでいったんだろ?剣城くんも今日は眠いかい?
仲間として祝ってやるべきなんだろうか?
その前にそんなこと口にすることすらはばかれてしまう。
なにせ、俺を含めてサッカー部1年のほとんどが童貞または処女。
それは中学生なのだから当たり前なのかもしれないが、輪を掛けてたかが下ネタでさえダメな奴らばかりだからこの免疫の無さに正直まいってしまう。
個人的には「よかったね」なんて言うつもりは毛頭無い。
こういう話が通じる剣城くん以外の仲間がいれば言うところだと思っている。
だが、例え居たとしても俺には都合が悪い。
俺は天馬くんに仲間とか友達以上の関係を求めているから。
それはお互いがどう思っているのか曖昧な意識の上のものでなく、恋人という互いに認めあっている関係で、剣城くんにバレたら怒られる程度じゃ済まないだろう。
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