イナGO

□擦り傷美味しくなぁれ
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俺は何やってんだ

誰かと特別出かけるわけでも無いのに、新品の靴で来るなんて
絆創膏は持っているが、貼るのはプライドが許さなかった
今は微妙に足を引きずって歩いている
自分で立てても耳障りなザッっという音に気を取られながら

だから盛大に転んで膝を擦り剥いても何が起きたのか理解できなくて、しばらく転がっていた。

で、何事も無かった様に立って、近くのベンチに座った。
こういう時に限って、あると思っていた絆創膏もハンカチも無い
「なにやってんだろ」

スッと目の前に出されたタオルと水を理解できずに凝視する
「キャプテン、使って下さい」
やっと顔を上げて聞き覚えのある声の主を確認した
「剣城?」
おどろいたことにそこには剣城が、いつもの少し大人びた顔と態度で立っていた
「自分で出来ないなら俺がやりますよ」
「いい、自分でできる」
有無も言わせずと言う感じだったので任せることにした
タオルに水を含ませて、膝を軽く押すような形で砂を取る。
あまり痛くは無かったのだが、気を抜けば、ズンと重い痛みとチリチリとしたむず痒いような感覚が襲ってくる
「絆創膏は持ってないんで、買って来ましょうか?」
返事をする前に、行ってしまいそうな剣城を腕をつかんで止めた
「なんで剣城がここにいるんだ?」
「買い物ですよ」

当たり前だ。
ここなら雷門中の生徒は皆、買い物にくる

「すまなかった」
「いえ、別に」
素っ気なくて、苛立った

まだつかんだままだった手を引いて立ち上がる
「剣城、お前はなぜいつも素っ気ないんだ?」
「そうですか?」

黙ってしまう
「そうだな、それがお前の普通なのかもな」

そのまま手を放して歩こうとして思わず呻いた
忘れていた靴擦れの痛みと、わかっているからこそ痛い膝に顔をしかめた俺に
「痛みますか?」
と、声をかけてくる
「いや、」
「家まで送りましょうか?」
いや、イイと言って再び歩きだすものの、思い出してしまった痛みは暴力的だった
踵と膝を押さえて思わずしゃがみこんで、下を向いて痛みが軽くなるのを待つ
こんなことを続けるのはどうかと思う

ふと顔をあげると、自分よりも大きな背が目の前に降りて来た
「靴縫いで、乗ってください。靴擦れもあるんですね」
驚いたが、これ以上プライドなんて気にしていられなかった
「靴擦れ…」
とにかく痛い、痛みを堪えることが辛かった

「嫌がられるかと思いました」
背に乗ると同時に言われた
「嫌だ、できれば嫌なんだ」
「安心しました」
「意味がわからない」
ハハッと軽く笑う剣城の髪に、額を押し付けた
ちくちくくすぐったくて肩に額を押し付けなおす。
甘いと言うより、少しすっきりした香水の香り

しばらくして感じたことが口出た
「いい匂いだ」
「なんですか?」
自然と口から出た言葉に突き動かされた
肩に唇を押し付ける
舌を這わせる
「キャプテン!?」
あと数メートルで家に着くから
「耐えられるだろ?」
「どうなっても知りませんからね」

早歩きになった背に揺すぶられながらどうなるのか想像してみた
だが、なにも思いつかず、怒られるんだろうなっとだけ思た

家に一足入れば
執事やメイドの人たちが俺の状態を気遣う
剣城は俺の指示とおり、彼らを無言で振り切って俺の寝室に入った
ベッドに降ろされて一息付く
やっと足が楽になった
「靴、そこに置いておきましたから」
「ありがとう」そう言おうとした口は塞がれて、空いた唇と歯の間に舌が侵入してくる
俺は、驚いて呼吸を止めていたのか?
息が切れてくると剣城は唇を離した
「驚かないでください、誘ったのキャプテンですから」
「え、ちょっ」
安心してくださいっと抱き締められた
「ん、はぁ」
あまりの香の濃さにクラクラする
さっきまで嗅いでいたのと比べものにならなかった
離れていく剣城を惜しんだ

「いやっ」
「キャプテン、美味しそうな匂いしますね」
「剣城の方が」
「こことか」
目を見開いてしまった
予想していない。
擦り剥いた膝をガリガリと引っ掻かれて、血が出る
遅れて暴れようとしたが、キッと睨み付けられ身が竦んでしまった
「ここなんかもっといい匂いだ」
踵を触られる
靴下を乱暴に脱がされて飛び上がった
まるでその反応を楽しむように笑う剣城が理解できなくて、ただただ恐怖しか感じない
「いただきます」
踵を噛られて剥がれかけた皮膚を削ぐように持っていき、また噛み付いて食い千切って咀嚼する。
「い゛っ、ぎゃう、ぐ」
理解できるできないの問題じゃない。痛い!
「もうこれは靴擦れ、じゃぁ無いですね」
両足が共に血だらけになったのを、改めて見なおしている剣城は
突然、慌てだした

「キャプテンの足が!」
「これぐらい大丈夫だ」
これぐらいなんて嘘。
猛烈に痛い。
だが、ほらっと慌てて立って見せる

「すみません、俺が…」
ベッドの上を跳ねてみせる
「ほら、大丈夫だろ?」
なんで俺は平気なふりをするんだ?そうか、剣城のトラウマを気にしているんだ

「キャプテンをさっきよりも美味しく見えるように」
トラウマじゃ、ない?
「してしまいました」
俺は誰も見ないであろう彼の笑顔に平気なふりも食された
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