イナGO

□望んだ叶った寂しくなった
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朝日の温かさと明るさに目が覚めた
あわててブランケットを被る
ずっと日に当たってしまっていたのに
赤くなってない

おかしい
何かがおかしい

起きるとどこからともなく現われては、早くしろと急かすシュウがいない
化身の気を追い掛けて愕然とする
どこにもいない
「シュウ…どこだ?」
どこにいったんだよ
辺りを見回す

「書き置き?」
横目にみた白い紙には殴り書きされた文字
『旅立ったボクから。またサッカーしたいな。自由を手にする君へ。』
裸足で部屋を走り出て無人になった施設からも抜ける
深い森の奥へ服が汚れるのも、手や足、顔に傷が付くのも気にせずただひたすら奥へ奥へと進んだ
木の根に引っ掛かり転んだ俺の目の前には開けた場所。
小さな地蔵。
エンシャントダークが練習に使っていたはずの広場までたどり着いた。

「どこ行ったんだよ」
誰もいないその場所で堪えられない涙を落とした
俺を置いてどこに行ったんだよ

こうなることは薄々勘付いていた。
他人に興味を持っているのにどこか諦めた付き合い方をして、近づいてきた奴には隙をみて離れていく。
シュウなら簡単に溶け込めるところもあえて遠巻きにして
いつでもいなくなる事ができる人付き合いしかしない。
そんなシュウの付き合い方が羨ましくも憎らしくもあった。
俺との付き合い方もゼロ計画が崩壊した今となればただの他人だった。
だけど、他人になりきれてなかったよな?俺を心配してた

とめどなく流れる涙を抑えるように目をつぶった

−−−

それからいくらかもしないうちに、円堂等に保護されゴッドエデンから出ることになった
「よろしくお願いします」
「案外礼儀正しいんだな」
円堂を含めた他の仲間たちが驚く
なかなか失礼なことを言ってくれる

おっ、そうだ!楽しいサッカーを思い出した奴には取って置きの提案があるっと円堂
「どうだ?雷門にこないか?」
円堂の魔法のような笑顔と言葉に思わず頷いた。
恐ろしいほど無邪気な笑顔に惹かれてしまう
俺が知らない笑顔

「シュウ…俺も島を出る。笑ってくれ、雷門に行くんだ」

塩風に吹かれて、光に思いっきり体を預けて
「シュウなのか?」
そっと目を閉じた
光に当たる体の暖かさを問う
お前が何かしたのかと

「なぁ、白竜」
かけられた声に振り返る
「シュウのこと考えてただろ?」
別に恥ずかしいことでは無いのに顔が火照る
「俺に他人のことなど考える必要なんてない」
「究極だからか?」
笑いながら問う円堂を睨み付けて言う
「いや、どうでもいいことだからだ」

俺は港に着くまでずっと外で考えていた

どうでもいいなどあるわけがない
他人を気にしないなどできるはずがない


−−−

「円堂監督!!」
ロッカールームに入ってすぐに、松風の驚く顔と困惑の表情を同時に見た
「えっと、白竜だよね?」
「他に誰に見えるんだ!?」
生来の性格なのか食ってかかってしまう

「シュウも一緒?」
「いや…」
「ふーん、シュウも来ればいいのに」
明らかに言葉を詰まらせようが、松風には気にする程のことではなかったようだった。

松風に気を取られていて他の部員の存在など忘れていた。
だから突然腕を捕まれてロッカールームの外に出された時に思った。
なるほど人を引き付けて放さない、これがこいつの魅力なのかもしれないと

「白竜!」
俺の腕をつかんだままの剣城の、怒りを露にした姿を目の当たりにして驚いてつい口調がきつくなる
「なんのようだ?」
「なぜ来た!」
「連れて来られたとでも答えよう」
「そうじゃない!シュウはどうした!」
「わからない」
「違う」
何が違うんだ
「シュウはもういないんだ!白竜!」
「それぐらいわかってる」
剣城が舌打ちをして諭すように言い直す

あの島の歴史を覚えているか?っと
住民が消え、本当の意味で孤島になったこと
それが俺たちには想像もできないぐらい前の出来事だということ
あの島の人がもう誰もいないこと
「誰もいないだと?」
「そうだ」
それならシュウは何者なんだ?
「俺はシュウと化身を合体させて…」
「すべて本当のことだ」
幽霊?
「嘘だ」
「信じられないだろうが、化身を出現させることができる俺たちみたいな人間がいるのを考えれば自然なことなのかもしれない」
「化身…」
俺は幽霊と化身を合体させたのか?
あそこまで実体化しているのを幽霊だとは思わない。
「お前が日の光のなかにいられるのは、守護霊が交代して体質が改善されるってやつだろ」
オカルトだなっと言う
「剣城、シュウは、」
口にするな
剣城の口がそう動いたが、声にはしなかった
剣城がロッカールームに戻るのを見届けて目を閉じた。

シュウ、お前が守ってくれているのか?
本当に究極なら守られる必要もないのだ
俺は本当に究極に、たったの一度だってたどり着いたことも、手に入れたことはなかったのか。
いつもシュウと一緒にいて、それで初めて究極に手をかけた程度に過ぎなかったのかと思うと苛立ち、苛立つ自分に混乱して
意味もわからず流れだした涙を拭えば「白竜!」っと勢いよく松風が飛び込んでくるのが見えた
体当たりされた勢いでのしかかられて倒れる
ごめんごめんと笑って避けた松風は、寂しそうな痛がるような、何とも読めない笑顔だった
「なんだよ」
顔を反らして聞く
「シュウの話し聞いちゃった。ごめん。」
「別に」
松風もショックだっただろが横目で見た笑顔は崩れていなかった
「でもさ、白竜の守護霊になったならさ、これからどこに行っても一緒なんだね!ちょっと羨ましいや」
またえへへっと笑いながら俺の混乱を奪っていく

理解して、悲しくて嬉しくて、次から次へ流れだして
どうしても止まらない涙に松風が、俺を抱き締めた
剣城が松風を呼ぼうと戻って来たが、すぐに離れて行った

日の光を浴びておもいっきりサッカーができる世界を、あの楽しかったサッカーを思える俺がいて
それはシュウに守られているからある現実で
信じられないほど感謝してる



あの時言えなかった、今言える言葉
「ありがとう」
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