イナGO

□望んだ叶った寂しくなった
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「おはよう白竜」
雷門とのあの刺激的な試合の後、みんなと最高の別れをして
崩れ落ちる様にして倒れた白竜を僕は看病し始めた

それから数日
頭痛、熱、嘔吐
目まぐるしく症状が変わる白竜に正直ボクはお手上げ状態だった
もちろんファーストランクの僕たちには専属の優秀な医師が付いていた。
だけど、この島からフィフスセクターが手を引いたことで全く機能しなくなってしまった
「こんな時に…」
「シュウ?」
さっきまで寝ていた白竜は潤んだ目で僕をしっかり捕らえていた
「大丈夫?なんか飲む?」
「いらない…」
しっとり汗で湿った前髪をかきあげてあげる
「汗かいてるじゃん」
うん
ストローを口にあてる
乾いた唇
ちょっと動いて吸う
「白竜、目は痛くない?」
「うん」

日差しに当たるのが苦手なのに
「俺たちのサッカーはどこでも究極だ」
そういって天井のないスタジアムを選んだのは白竜、君だよ?

日焼けした腕に薬を塗りこむ
ちょっと引っ掻くだけで皮が剥けるみたいになる
少しずつ剥がれていくのが気持ち悪かった
触られるのは痛いから嫌だと言う白竜をそっと抱き締めた
「僕は白竜に痛い思いをさせたいわけじゃないよ」
安心して欲しいんだ
僕は怖いんだよ
こうやって剥がれていく皮膚で、薄紙が剥がれていくようで
きれいな肌が出てきて治ったんだって思えて
でもそれが僕の前でボロボロになって行くようにしか見えなくて
僕が知ってる姿を保っていてほしくて
「すぐによくなるよ」
少し強く抱き締めた

2万人に1人
それがどれぐらい珍しいか、珍しくないかなんて僕には想像もつかないような確率だった
なにせ現に目の前で、日に負けた正にそれを見てしまったのだから
「アルビノ」
先天性色素欠乏症。一般に白子症とも言われているらしいが、詳しいことなんて僕はわからない。
ただ、わかるのは日に当たることが、どれだけ彼らの生を脅かすのかということだった

ねぇ、白竜。
もしも外でサッカーできるようになったら嬉しい?

お粥を持って白竜の部屋に入る
「シュウ、もしもこの島から出るんだったら書き置きとかしていけよ」
解熱剤のおかげで熱が下がってきて楽になったのか、ベットに座った彼が言う
「俺も書いとくから」
まだまだ日焼けの影響の熱を持つ体は重いみたいだけど、回復の兆しに安堵した
そしてわかったよ
って作りたくない笑顔を作ってあげた

僕は君の前からもうすぐ消えてしまう
白竜はわかったのかな?

その日
たまたま隣で寝てしまっていた
もうすぐ日が上る頃
しっかり握られた手を外す
「じゃあね、白竜。」
またねなんて言えないんだ

歓楽極まりて哀情多し
これを言ったのは漢武帝だったっけ?
覚えてないや

でも本当に嬉しかったんだ
君の言う「究極」って感じ
一緒に練習して、強くなって、化身合体できて
実は誰よりも信頼してて
だけどほら、ふと悲しくなるんだ

もう流れないと思っていた涙が流れて僕を濡らした
やっぱり嫌だなぁ
もっとここで一緒にサッカーしたいなぁ
「君をここに縛り付けることなんて」
できるわけ無いけどさ

結局、僕を強くするのは守るべき人達だ
守るものが有のは辛いことかもしれないけど、無いよりもあったほうがいい
「僕は強くなれたよ」

いつの間にか石像の前に立っていて隣にいる子に目線を合わせる
妹が迎えに来てくれるなんてね

そろそろ?

うん
僕の手を取る
白竜が日の光の下でサッカーをする姿を望み、焦がれながら
離れてしまう世界に、ちょっとだけまた泣きそうになって上を向く
太陽が上がってくるのを見ながら意識が無くなるのを待った

暗くて冷たい世界だけじゃないって、根本を塗り替えられたこの場所を、あの楽しかったサッカーを思う僕はもういなくなる
それでもこの世界で彼を守るのは常に僕でありたいと思う
たくさん感謝してるのを伝えたいから

だけど
最後まで伝えられなかった大切な言葉は、白竜が僕に気付くまで言わないでおこう

ほら白竜、起きてよ、日差しってこんなにあったかくてきもちいんだよ!
それは僕にはもう感じられない温かさだけれど



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