イナGO

□信頼
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「せんぱーい、キスしましょう」
練習が終わり部室の点検をしていると、後ろから突然声がかかった
よりによって、最近おろそかになっていたピアノのレッスンのため神堂は早退していて、自分一人の時だった
なんの新手のいたずらだよ…自分をあそびにつきあわせようなんて
いらいらする
「やめとけ、俺は男だぞ」
「だから、いいじゃないですか」
放っておこうと決めた。どうせすぐに飽きて別の悪戯を仕掛けてくるだろう
「それに、先輩は男に見えませんから」
いちいちいらいらする
だけど
そう
気にしてはいけない
男に見えないなんて言われ慣れた
神堂のタイプの女の子も俺の外見と全く一緒
俺を好きになってもらえるようにした
だから
いまさら気にすることではないはずだ

「先輩はキャプテンのことが好きなんですよね?」
だからなんだと言うんだ
「先輩が俺のものにならないならキャプテンを俺のものにしようと思います」
焦った
無反応を気取ることができなかった
「無理だ!」
俺が強く言えば
なぜ?っと口の端を持ち上げる。
知ってる。こいつは自分に自信がある時、この表情を見せる
「まだヤルところまでいってないないですよね?」
唾を飲み込む
「それ、肯定の意味があるんですってね」
そうだ
スルどころか告白もできていないんだ
「そんなに嫌ですか?」
涙目になってますよっと、俺の顔を覗き込んだ狩屋を思わず平手打ちを食らわせる
痛いとか何も言わないでうつむいてしまったことに驚いて
「狩屋…?」
っと呼ぶと
「心配しましたか?」なんて意地が悪い声で返ってきて、今度は拳を食らわそうと思った
でもしなかったのは多分、狩屋がうつむいたままだったから、意地悪な声にいつも聞いていなければわからないような震えが混じっていたからだと思う
「ごめん…」
「キスしてください」
「まだ言うか」
「しましょう」
「嫌だ」
「キャプテン」
はっとして、しまったと思った
「しましょうね?」
唇を噛み締める
「唇切れますよ?」
それでも噛んでいると、舌打ちして唇を重ねられる
いつもの態度からでは想像もつかないほど優しいキスだったから、目を見開いた
長いキスの間に、涙をぬぐった痕のある狩屋の顔を見た
そんなに痛かったのか?
違う
やっと人を信じよう、人に近づいてみようと思いはじめていたのだろう
それを俺は拒んだ
間違った試し方、近づき方に拒まずにはいられなかった
自分ではどうしようもない悔しさと、嫌悪感の涙を流したのかもしれない

ごめんね狩屋
俺は狩屋に信じてもらえるほどいい人じゃないよ
でもこれからは
お前のことちゃんと考えてやれるようないい人になるように努力するからね

「俺を信じて」
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