REBORN
□紙飛行機
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放課後の教室。
人の去ったソコで、あたしはただ一人机に向かいせっせと手を動かしていた。
ありえない。信じられない。ふざけんなチキショー。
「あああああ!!思い出しただけで腹立つんですけどオオオオ!!!」
何なんだアイツ!?授業サボったり寝てたりするヤツが何あの結果?!!!
どうして獄寺は100点であたしが35点なんだチクショーーーーッッ!!!!
あたし授業出てたよね?!寝てなかったよね?!
昨日あった数学の小テスト。
一体誰がこんな結果を予想しただろうか?
否、誰も。
あたしはどう考えても八つ当たり以外の何者でもない感情に気づかない振りをして。
テスト用紙でアレを作ることにした。
そうだ、元はといえばこのテストがいけない。
テストなんか嫌いだよバカヤロー。
「よっしゃああああ!出来た!」
「何が出来たんだよ」
「おわっっ!?!!」
突然の声に体がビクリと反応し、手にしていたソレは綺麗にヤツの足元へと滑り落ちた。
何でこのタイミングで・・・とジロリと睨めば、あたしの落としたソレを持った―――獄寺とバッチリ視線が重なった。
「紙飛行機って・・・・。小学生かよテメーは」
「うるさいなぁ。ていうか驚かさないでよね。危うく完成ホヤホヤの紙飛行機様を握り潰すところだったじゃんか」
呆れた様子の獄寺から紙飛行機を奪い取り、教室の窓をガラリ、開ける。
思い切り息を吸い込むとどこか懐かしい秋の匂いがして自然と口元が緩んだ。
と、何故か隣に獄寺がいて。
「何、獄寺。帰るんじゃないの?あ、そういえばツナは?」
「十代目は先に帰られた。どうせ暇だからオマエがソレ飛ばすの見といてやるよ。オラ、さっさと飛ばせ」
「言われなくても飛ばします――――よっ、と」
構えた手をそっと放すと、するりと空に飛びだした白い紙。
夕暮れのオレンジのなかを、あたしの放った紙飛行機の白が、風に流れ、緩やかに弧を描き飛んでいく。
「つーかよオマエ」
そんな景色をただ黙って見つめていたあたしに、それまで静かだった獄寺が小さく声を発した。
ゆっくりと獄寺のほうを向けば、銀灰色の髪に目を奪われた。
オレンジ色に透けてキラキラと輝く髪の毛。
綺麗、など口に出せる訳もなく「何」と我ながら素っ気ない返事を返した。
すると獄寺は、女のあたしより何倍も細く長い指でゆっくり視界から消えていく紙飛行機を指差し、
「あれ今日返された小テストだろ」
無言。
「回収しないと見つけたヤツに点数バレんじゃねーのか?」
無言。
「先公に見つかったらヤべーんじゃねえのか」
「・・・もっと早く言おうか獄寺君!!?」
分かってたんなら早く言えよ!!!
ていうかそんなの考えもしなかったし!
「困る困る!!はははは早く回収!探さなければ!!!」
慌てて窓から離れて机の上の鞄を引っ掴み教室を出ようとすると「待て!!」と声がかかり慌てて足を止めた。
振り返ると頭をガリガリ掻きながら歩いてくる獄寺がいて。
「・・・しょーがねーから俺も探してやる」
「・・・・・・」
「・・・んだよ。何か文句あっか」
「や、あの、暗くなるから帰ったほうがいいんじゃないの?あたし一人で探すし・・・。気持ちはありがたいけど・・・・」
意外な言葉にたじろぎ、思わず目を逸らしてしまった。
「・・・・・・・ら」
「え?」
「・・・暗くなるから言ってんだろーが」
「・・・・・・・・え?」
逸らした目を獄寺に戻すとフイと顔を背けられた。
・・・一瞬顔が赤いように見えたのは気のせいか?
キョトンとしたまま言葉の続きを待っていると聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声がして。
「っ、」
不覚にも顔が赤くなった。
「・・・・・・行くぞ」
「・・・あ、え、ああ!いいい行きますか!!」
どちらからともなく歩き出し、靴箱へ向かう。
何で紙飛行機でこんな展開になるのだろう。
しかも八つ当たりしてた元凶と。
心配なんだよ、テメーが。
(・・・・・ついでに送ってやる)
ああどうしよう。熱が、冷めない。
紙飛行機よ、できればどうか。
うるさい心臓の音と顔の熱を乗せて、空の果てまで飛んでいけ。