浮き雲二つ
□2話
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あたしの生まれてきた意味なんて、決まってる。
この世に生まれ落ちた瞬間から、敷かれたレールを歩むことを義務づけられた哀れな娘
それが那智だった。
食べるものもろくに得られない人間もいるなかで恵まれた人生なのだから、文句は言えない。
父に言われるままにピアノ、生け花、茶道、武道と一通りの事は習い、こなした。
けれど何故か渇いていたのだ。
足りないものは何でも買い与えられたけれど、何か心に空いた穴があるのに気づいていた。
それともう一つ、生まれた瞬間から決まっていたことがある。
那智を生んですぐに母親は体調を崩し他界した。
妻を愛していた父は他の女と再婚する事が出来ず、会社の後継ぎを那智と結婚した相手にすることにした。
だがそこは経営者、そこらの馬の骨に後を継がせる訳はなく、とある大企業の息子に目をつけた。
5歳になるころには顔の造形は出来てくる。
母によく似た綺麗な娘になっていく少女に利用価値を見いだした父親は、これ幸いと婚約の話を大企業の社長に持ちかける。
結果は上々でうまく繋がりを持つことができた父は上機嫌だった。
那智の意思なんてものは口にすることも許されなかったのだ。
――――あぁ、渇く……
――――あたしはこのまま一生道具なの?
――――それならせめて……
そして15になったある日、那智は家を出ることを決意した。
最初はもう反対していた彼女の父も、旭ヶ華学園に通うという条件付きでそれを許した。
ようやく自らの羽で羽ばたき始めた那智
けれど、その羽はじきに引き裂かれることになる。