真選組の華 〜真選組女隊士物語〜 第2巻
□第47話 理想を押し付けあう理想の家族、プレゼンデッドバイ阿良々木家
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「いやぁああああっ!!」
バサッ
はぁ、はぁ、と自分の荒い呼吸音が聞こえる。
目の前にあるのは兄の姿ではなく、毎日見ている木目の模様。
気が付くと雛乃は、屯所の自室に寝かされていた。
額に浮かぶ玉のような汗が、耳の横を伝って枕に染み込む。
髪の毛や衣服がべたべたと張り付いて気持ちが悪い。
振り払った掛け布団を更に足で蹴り、身体を冷たい冬の空気に晒すと、すこし息が楽になった気がした。
汗を拭おうと顔の近くまで腕を持ち上げた時、背中を激痛が走り去った。
「う、ぐっ!」
堪らず手を元に戻すと、頭上で襖が開く音が鳴り、入ってきた人物が声をかけてきた。
「おい・・・何してんだ。大丈夫か、雛乃」
「土方さん・・・」
片手に水の入った桶、反対の手には手拭いを持った土方は、足の下をちょこちょこと歩いて行ったレンを避けて布団の隣に腰を下ろす。
「にゃー」
「レン・・・」
「猫にまで心配されてどうすんだよ。怪我はまぁ見ての通りだろうが、気分はどうだ」
あんまり大丈夫じゃないですねぇ、と苦笑すると、大きな溜め息を返された。
それを申し訳なさそうな表情で聞き流していると、頭部に突然冷たいものが触れた。
「汗。自分じゃ拭けねェんだろ。気持ち悪いとこあったら言え、やってやる」
「すいません・・・じゃあ、おでこと、首と・・・」
濡れた布巾が通った部分が、静かに熱を手放していく。
雛乃はそっと瞼を閉じる。
彼女の白く滑らかな肌の上を丁寧に辿りながら、土方が話し始めた。
「お前が見つかったのは昨日の夕方だ。雪に半分埋もれた状態で、大江戸警察から少し離れた路地裏に倒れてた」
彼女が届け物のために外出してから三時間程が経過していることに気が付いた山崎が、彼に心配そうに相談してきたという。
「お前が行って帰ってくるだけの仕事にそんなかかる筈ねぇし、万事屋にでも絡まれてんのかと思ったが、念のため見廻りの隊士に序でに捜索を頼んだ。すぐ見つかったぜ、辺り一面真っ白なのに、赤い雪が積もってる場所があるんだからな」
その場所には小さな人集りが出来ており、不気味な赤い雪に人々は戸惑っていたらしい。
そこを通りかかった真選組の隊士らが雪を退かしてみると、その下から出てきたのが青白い顔をした少女だったものだから、大騒ぎである。
慌てた町人と隊士が彼女をすぐに病院へ運んでくれたため、間もなく適切な処置が施され、雛乃は一命を取り留めた。
だが、医者によると相当危ない状態だったようだ。
治療があと数時間遅れていれば命に関わる問題になっていたと、病院に彼女を引き取りに行った近藤と土方は告げられた。
「一通りが少ない場所で倒れていたから、発見が遅れたんだろうな。雛乃、一体何があった」
そう尋ねた時、閉じられた雛乃の目から、一筋の涙が溢れた。
「っ、おい!?」