真選組の華 〜真選組女隊士物語〜 第2巻
□第45話 続き柄を書くときは両親、兄弟、祖父母の順
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そうして客間には、雛乃と真選組幹部の三人、茶を運んできた山崎、そして銀時と彼が連れてきた老人の七人が集まった。
まずは銀時から、老人の紹介が行われる。
「えーと、まぁこん中じゃ雛乃以外は初対面だな。まーその雛乃も覚えてるかわかんねぇけど」
「え、雛乃ちゃんの知り合いなの?」
山崎がそう尋ねると、少し歯切れの悪い回答が返ってきた。
「あの…以前お会いしたことがあるのはわかっているんです。ただ、お名前とか、何処でお会いしたのかとかは思い出せなくて」
申し訳なさそうに縮こまった彼女が、更に一回り縮こまり、謝罪と共に頭を下げた。
しかし老人の方は特に気を悪くした風でもなく、雛乃に微笑み掛ける。
「いいんじゃ、そうだろうとは思っておった。何せ最後に会ったのは戦前のことだ」
「雛乃、このじーさんは、お前の母さんの父さんだ」
そう聞いて、はっと遠い昔の記憶が甦った。
古くて小さな家の中で、家族四人で暮らしていた幼少の頃。
たまに、両親は買ってくれない砂糖たっぷりの菓子を、自分と兄に持って来てくれた人がいた。
膝の上に二人を乗せて、火傷の傷が多い手のひらで撫でてくれた人がいた。
――それはまだ、幸せしか知らない時代のことだった。
「…おじいちゃん…?」
「そうじゃ。大きくなったな、雛乃」
皺だらけの顔でくしゃっと笑った万幸を見た時、思わず何かがぷつんと切れる。
「お、おい雛乃!どうした、どっか痛いのか!?」
横から近藤の慌てたような声が聞こえた。
それを受けてやっと、雛乃は自分が泣いているのだと気が付く。
周りの戸惑った顔が見えて、雛乃は急いで涙を拭おうとした。
すると視界に突然現れた手が腕を掴み、それを阻んだ。
「な、んですか…」
鼻声になりながらそう言うと、手を捉えた土方は、正面をそっと指差す。
促されてそちらを見ると、腕を大きく広げて待つ万幸がそこにいた。
母が病気で亡くなり、戦争で父を奪われ、兄とも離ればなれになってから十数年。
雛乃はずっと、家族を欲していた。
松ノ原や銀時達や真選組も勿論家族と同等に大切な存在だ。
だが、彼らでは埋められない寂しさというものがあった。
それを、一番甘えさせてもらいたい筈の年頃だった雛乃は、一人でずっと抱えていたのだ。
それが今日、ついに報われる。
土方が、押し出すように背中をとん、と叩いた。
「…っ、おじいちゃあん…う、ぇえん!」
「よしよし。…一人にして、悪かった」
やっと会えた肉親。
血の繋がりというのは、ただの戸籍上の括りではない。
心を許し、何も隠すことなく抱き合える安心感がそこにはある。
寂しかった。
ただひたすらにそう訴える雛乃を抱き締め、万幸は語り掛けた。
「好きなだけ泣きなさい。今まで甘えられる相手がいなくて我慢させてしまった分、儂が全て受け止めよう」
誰にも必要以上に頼らず、我が儘も言わずに頑張って来た雛乃を知っている皆が、泣き続ける彼女を責めることはなかった。