真選組の華 〜真選組女隊士物語〜 第2巻
□第43話 いくらメールが発達しても手紙でしか伝わらないこともありそうな気がする
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「雛乃・・・雛乃・・・」
何処か白い空間に、雛乃は立っている。
そして彼女の前には、ひとりの男が立っていた。
ふたりは向き合っていて、お互いに少しずつ近づいて行く。
男が何者なのか、雛乃にはわからない。だが、男を知らないわけではない。
そんな感覚だ。
男はしきりに雛乃の名を呼んでいる。
切ない声で、ずっと呼び続ける。
「雛乃・・・雛乃・・・」
「誰?誰なの?」
雛乃は尋ねた。
すると男は、両手を広げて言う。
「雛乃・・・俺だ・・・和樹だ・・・お前の・・・兄ちゃん・・・」
「お兄ちゃん!?」
雛乃はハッとして叫んだ。
兄とは父が亡くなった日以来何の音沙汰もなく、何処かで命を落としたのではないかと、ずっと心配していた。
その彼が今、目の前にいるとは。
ふたりの距離はどんどん短くなって行く。
だが、まだ兄の顔ははっきりと見ることができない。
雛乃はどんどん歩み寄る足を速くする。
そして、遂に走り出した。
「雛乃・・・雛乃・・・」
やっと、兄の口元を確認することが出来た。
にこりと弧を描いて、優しく微笑んでいる。
雛乃は全てをしっかり見たいと、更に走り続けた。
そして、後少しで全てがハッキリ見える、というところで雛乃は、兄の口元が、にたりという不気味な笑みに変わるのを見た。
それを訝しんだ時、
「雛乃・・・お兄ちゃんが雛乃を・・・殺しに来たよ・・・」
兄の手に握られた短刀の刃が、視界の隅でぎらりと光った。