真選組の華 〜真選組女隊士物語〜 第1巻

□第4話 ゲーム進めるとどっかに出てくるスキップ不能の強制ムービー
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そんなわけで、雛乃はかぶき町内をのんびりと散策していた。


やはり、女が真選組の隊服を着ているというのは目立つようで、ただ歩いているだけで注目され、すれ違う人は何かを囁き合っている。


あまり気持ちのいいものではなかったが、仕方がない。


はぁ・・・と重いため息をついた時、雛乃は前方にある名物を見つけた。




「あ!あれがターミナル?」




今や皮肉なことに江戸のシンボルとも言える、最も目立つ建造物、ターミナル。


家々の屋根が連なる中で、群を抜いて高い。


近くまで行ったら一体どのくらい見上げなければいけないのだろう。




「で、あれが大江戸ドーム!」




こちらも日本家屋が立ち並ぶ中でひときは大きな存在感を放っている。


周囲に人だかりが出来ているところから見ると、今日も何かの試合が行われているのだろう。




「江戸ってすごく広いんだな・・・。先生の家の周りしか知らなかったんだ、私」




今まで生活してきた田舎の風景と、江戸の中心に近いこのあたりでは、空気が全く違う。


やがて、自分につきまとう好奇の視線も忘れ、雛乃は悠々と町を楽しみ始めた。


興味のわいたものを片端から覗いていると、余りにも不注意すぎたのか、すれ違いざまに誰かにぶつかり派手に転んでしまった。




「わあっ!あ、ごめんなさい!」


「いえいえ!こっちこそすみません。ほら銀さん!」


「はい、はい。お嬢ちゃん大丈夫ー?」




間延びした口調やだらしない服装とは裏腹に、優しく手を差し伸べる銀髪の男。


その手は、初めて会った日の近藤を彷彿とさせた。


見上げると男の奥にはメガネの少年とチャイナ服の少女がいる。


この男もまた、誰かの上に立つ人間なのだろうか。

きっとその才能があるのだろうと察することができた。


差し出された手に素直に甘えて立ち上がるのを手伝ってもらうと、突然メガネ少年の目がまん丸になった。




「あれ!?女の方、ですか!?それ真選組の隊服ですよね・・・?」


「あ、はい。そうですよ」


「私わかったアル!ブラック星座占いの前にニュースで言ってた、今有名な女隊士さんネ!」


「テレビ!?私テレビに出てるんですか!?」


「えっ、違うアルか?」


「あ、いえ、多分違わないんですけど・・・えぇーっ・・・」




初対面の彼らを相手に自然と笑顔がこぼれたのは、この二人の隔てない空気のせいか、はたまた年の近さによるものか。


思いがけず盛り上がった三人の会話だったが、そこへ横から声が飛んできた。




「おい、お前・・・華宮雛乃だよな」


「えっ?」




突然本名を、しかもフルネームで呼ばれて雛乃は驚いた。


もしやテレビで名前まで紹介されているのか?


あらぬ心配をしていると、メガネくんはその男に言った。




「銀さん、もしかして知り合いですか?」


「銀・・・さん・・・?」




銀、と口の中で呟くと、不思議と慣れ親しみのある響きだった。


舌が知った言葉のようにするすると動く。




(私この人、どっかで・・・)




銀髪のパーマ。


死んだ魚のような目。


気だるそうな佇まい。


先ほどの優しい手。


雛乃は記憶の隅に、似た影を思い出した。


しかし、彼は戦争中攘夷軍に伝説を残すと、戦線を離脱したあとは一人で行方をくらませてしまったのだ。


こんな場所で、こんな風に、のんびりと暮らしているはずがないと雛乃は思った。


それに、もし本当に彼なら――雛乃は、合わせる顔などどこにもない。




「あれ〜?まだ思い出せない感じぃ?」




思い悩む彼女をよそに人をおちょくるように喋りながら、銀髪の男はこちらに近づき、さっと身を屈めた。


腰を折り、上半身を倒すその動作が、スローモーションのようにひとつひとつはっきりと見える。


彼は背の低い雛乃に話しかける時いつもそうしていた。


過去に何度も目にした動きだった。




「紅薔薇」


「!」


「・・・だろ?」




もう誰も呼ばなくなった異名。


もはや懐かしくもあるその名で呼ばれれば、雛乃の肩がついピクンと反応する。背筋がぞわっとした。


よみがえる数多の記憶。

この異名を知る者は、こちらに来てから知り合った人物の中には一人もいない。

過去の知り合いだとしても、このように友好的に呼ぶのは先生と、そしてあの三人だけだ。


様々な思いが込み上げる。


喜びと、感動と、その中に混じって、ひとつの申し訳ない気持ち。

それは過去に彼に作った大きな借り。

詫びる方法すら、数年経った今でも思いつかない。

雛乃は今までも、これからも、その過去によって自分を戒め、律しなければならないのだった。


こうして何年かぶりに再会しても、彼は自分に怒っている様子はない。


今この瞬間だけは、許してもらえるだろうか。


この奇跡のような再会を、少しの間だけ手放しで喜ばせてほしかった。




「そっちこそ・・・白夜叉」


「あんまでっけー声で呼ぶんじゃねぇよ。でっかくなったな、あんなにガキだったくせに」




くしゃっと前髪を押さえつけられても、髪型が崩れることは気にならなかった。


大きな手のひらが温かい。


溢れる思いは涙として体の表面に表れ、雛乃の瞳を潤ませた。




「・・・っ、銀時ぃ」


「ったく。泣くんじゃねーよ」




男はいとおしむように目を細めて、困った顔で笑った。
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