真選組の華 〜真選組女隊士物語〜 第2巻

□第44話 子の代に出なかった親の形質が孫の代に出るのがメンデルの遺伝の法則
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松ノ原からいきなり届いた手紙を読み、江戸中に張り巡らされた寺子屋ネットワークなるものに銀時が戦慄して、数日。


二月に突入した江戸には、雪が降っていた。




「おー、寒ぃ寒ぃ」




夜中から降り出した雪の影響で、今朝はかなり冷え込んでいる。


布団から出てすぐに半纏をしっかり着込みながら、銀時は居間へ続く襖を開けた。


するとその先には、土鍋を両手に抱えた新八が立っていた。

突然視界に現れた彼に激突しそうになった銀時は、慌てて一歩さがる。




「あ、銀さん起きました?おはようござ・・・ふっ。入っていいですか」


「おう・・・いいけど何か用か」


「今朝は寒いんで、和室の炬燵で朝ごはんにしようかと思って」




それはいい、と同意した銀時は、部屋の中へ戻ると敷いたままだった布団を脇へ退かした。




「雪が降って、今日の気温は昨日から十度も低いそうですよ」


「十!?そりゃ寒いわけだわ」


「銀さん、ちょっと薄着で寝てましたよね。大丈夫ですか」


「あー、ちょっと腹下したかもしんねぇわ」




そんな会話をしながら、夜の間の隅に置いていた炬燵をずるずると引き摺り、銀時が和室の中央へ運ぶ。


それを待って、新八が鍋を机の上に載せた。




「今朝は雑炊にしました。お昼も何かあったかいものにしましょうね。神楽ちゃん、何がいい?」


「ちぃずふぉんでゅがいいアル!」




ばっと部屋に飛び込んできた神楽は、三人分の取り皿とスプーンを持っている。


それを一人ずつ受け取り、其々定位置に座った。




「銀ちゃん・・・ぷふ、オハヨー。銀ちゃんもちいずふぉんでゅでいいアルよな」


「じゃあうどんでいいですか?」


「うぉいダメガネ、訊いといてスルーアルか!」


「だってどう考えても作れないし・・・」


「ギャーギャーうるせえな。間とっておでんでいいだろ」


「「それお前の食いたいもんだろ」」




銀時が鍋の蓋を取ると、むわっと一気に湯気が溢れた。


新八がお玉を取り、一人分ずつ取り分けていく。




「じゃあお昼はうどんにして、夜はおでんにしますか」


「そうだな。これ塩ねーの」


「一応味付いてますから、食べて薄かったらにしてください」


「私のちいずふぉんでゅはどこに行ったネ!ちぃずふぉんでゅううう!」




全員が一杯分を受け取った丁度その時、ピンポーンというチャイムの音が響いた。




「ったく誰だよ、これから飯って時によぉ」


「銀さん出てきてください、僕お茶入れてくるので」


「私、定春呼んでくるアル」




廊下の床は冷えていて、素足で歩くには少し辛い。


背を丸め、爪先だけでひょいひょいと進んだ銀時は悴む指で玄関を開ける。


だが、戸の向こうに立っていた人物を確認するとすっと背筋を伸ばした。




「・・・っ、おはよう。銀時」


「はよ。来たのか」


「あぁ。君の伝えてきたご老人で恐らく間違いないだろう」




訪ねてきたのは、朝からきちっと身なりの整った柳生九兵衛だった。




「今朝到着した。今日一日はうちに滞在するようだ」


「そうか。悪いけど今から飯だからよ、食い終わったらその爺さんに会わせてもらっていいか」


「あぁ、いいぞ。では朝食を食べて・・・その馬鹿らしい頭をどうにかしてから行こう。ぷっ、ははは!」




寝起きの天然パーマの爆発具合を指して、九兵衛がそう言った。


家の奥から、ずっと笑いをこらえていた新八と神楽の笑い声が聞こえ出す。
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