真選組の華 〜真選組女隊士物語〜 第2巻

□第45話 続き柄を書くときは両親、兄弟、祖父母の順
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「・・・で、ここへ来た要件は何なの」




ぐすっと鼻を鳴らした雛乃は、居心地悪そうに俯きながらそう訊いた。


つい先程まで、皆の前で子供のように泣きじゃくっていた彼女。

それによって積もり積もっていた寂しさが少し解消され、そのこと自体は自分としても嬉しいと感じていた。


だがしかし、あのような姿を集まった全員に見られていたと思うとやはり恥ずかしさが込み上げてくる。


泣き腫らし赤くなった目を隠すように下を向くその姿に、銀時は目を細めた。




(やっと、泣かせてあげられたな・・・)




戦時中、雛乃と共に暮らしていたことがある彼は、子供ながらに必死に気を張っていた彼女を知っている。


辛いことがあっても、自分の中で押し込めてほとんど泣かなかった彼女。

家族をなくした悲しみにも屈せず、いつもにこにこと笑っていた。

戦争特有の張り詰めた空気の中で殺伐としていた自分達を、いつも和ませてくれたのは幼い日の雛乃だった。


本当は誰よりも泣きたい筈だと、銀時も、桂や高杉も思っていた。

甘えてもいいんだと伝えたこともある。

それでも彼女は、自分から進んで弱さを見せることはなかった。


今日流した涙が、あの日の雛乃の我慢も救済してくれていれば良いなと、銀時は思った。




(よくここまで頑張ったよ、お前)




そして心の中で精一杯の敬意を表しつつ彼女から目を外し、集まった者達に顔を向けた。


円形に座り込んだ彼らが注目を寄せてくる。


銀時は語り出した。




「俺達がここに来たのは、じーさんを雛乃に会わせてやるのだけが目的じゃねぇ」


「そうでしょうねィ。旦那がわざわざ出向くなんざぁ随分大事な用らしいと、俺ら全員思ってやすぜ」


「俺そんなに出不精じゃないんだけど」


「よく言いやす。連日働かずに家でだらだらだらだらしてやがるくせして」


「なっ、何故それをを!」


「誰でも想像つくわそんなん!いいからさっさと本題に入れ」




二人の茶番を一掃した土方が、煙草の煙と共に催促の言葉を放つ。


「はいはいわかりましたぁ」と間延びした返答をした銀時が懐から取り出したのは、一枚の手紙だった。




「少し前、俺のところにこれが届いた。松ノ原先生からだ」


「有助からか?」




松ノ原と付き合いのある近藤が反応した。

他の者はピンと来ていないようだったが、雛乃が自分の師だと説明すると思い出したようだ。




「で、読んだんだけどよ。したらどうやら吉原での一件を耳にしたらしいんだわ」


「雛乃と神威のあれ、か」


「雛乃ちゃんが暴走したやつですね」




山崎の言葉により、全員の意識が吉原の夜に遡る。


紅色の光と共に強大な圧力を放ち、その場を支配した黒野薔薇。

そしてそれを操る豹変した雛乃。


神々しさすら感じる程の圧倒的な力の前に、足が竦まなかった者はいなかった。




「あぁ・・・そうだ、あれだ。雛乃がおかしくなっちまって、刀が光って、お・れ・を・斬・っ・た、あれな」




一部を強調して言った銀時が、妙にニヤニヤした表情を浮かべてこちらを見る。


雛乃は苛立ちに筋肉を引き攣らせた。




「だからそのことに関しては何回も謝ったでしょ!?まだ言うの!?」




嫌味ったらしく言われ思わずそう怒鳴ってしまったが、罪悪感は残っているのでそれ以上は怒れない。


眉を八の字にしてすごすごと引き下がる雛乃を見て、銀時が意地悪く笑った。




「まぁそれは置いといてだ。それを知った松ノ原先生が、俺達は『早急にあの刀の正体を知る必要がある』つってきたんだよ」


「・・・」




雛乃が息を飲む。


沖田達真選組の面々もはっと緊張した顔つきになった。




「黒野薔薇の・・・正体」
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