真選組の華 〜真選組女隊士物語〜 第2巻
□第41話 白い粉って美味しいよね。・・・塩のことだってば
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「メイド喫茶って・・・あれですよね、メイドさんがいっぱい働く喫茶店・・・」
「はい」
「メイド服姿の女達とじゃんけんとかする小っ恥ずかしい店だろ?」
「はい」
「客のことを『ご主人様』って呼んで奉仕してくれる雌豚の宝庫だろィ?」
「そ、それは違いますけど」
隊士は冷や汗を掻きながら、詳しい報告を始めた。
「犯人が潜伏していると思われるのは、かぶき町のメイド喫茶『萌萌☆冥土乱土』です。店員として働き、役人逮捕の騒ぎが落ち着くのを待っているようです」
「「「「「もえもえ・・・めいどらんど・・・」」」」」
何故よりによってメイド喫茶に、と幹部の面々は揃って複雑な表情を浮かべる。
“メイド喫茶”という言葉は、想像してにやけてしまうのと同時に、男に何となく罪悪感を抱かせるものだ。
そんな男性陣の心の内を察して苦笑した雛乃は、彼らの代わりに話をまとめに入った。
「・・・では、そのメイド喫茶に御用改めに向かいますか?」
「あ、いえ!それは待って下さい」
と、雛乃の提案を制したのは報告に来た隊士だ。彼は言う。
「この情報は、市民からのたれ込みなんです。まだ犯人がいると確定は出来ません。証拠もなく店に押し入るのはどうかと・・・」
「う〜ん。まぁもし違っていた場合、商売の邪魔をするのも申し訳ないですしね」
その“商売”の内容を想像した男達の鼻の下が、少し伸びた。
雛乃は呆れるばかりである。
「じゃあどうしますか。犯人だという証拠を手に入れなきゃですよ」
「なら、一度その店に行く必要があるんじゃないか!?」
嬉々としてそう言ったのは、二番隊隊長の永倉。
だが、すっかり緩みきったその表情から彼の思惑を理解した雛乃は、鋭く言い放つ。
「もしそうなっても、永倉さんは向かわせませんよ。どうせメイドさんと、あんなことこんなことをしたいだけでしょう」
「うっ・・・!何故バレた!」
「欲望がバレバレの見え見えです」
魂胆を完全に見抜かれた永倉は、意気消沈し項垂れた。
まったく男はこれだから、と悲観するように雛乃が零した時、土方が口を開いた。
「だが、潜入の必要はあるかもしれねーな」
「・・・まさか土方さんもメイドさんと戯れたいんですか?」
「違ぇよ!あと戯れるっつー言い方なんか止めろ!」
「じゃあにゃんにゃんしたいんですか」
「より悪いわ!」
指に挟んでいた煙草を吸って怒りを鎮めた土方。
真面目な目付きへ切り替え、改めて提案を打ち出す。
「店員っつーことは、店に行きゃ会えるんだろ?一先ずそいつが本当に犯人なのかを確認しなけりゃ、次へ進めねぇ」
「あぁ、トシの言う通りだな。潜入を行うことは決定だろう」
土方に続けて近藤がそう言うと、各隊長も同意した。
「なら、客として入店して探りますか」
そう尋ねたのは九番隊隊長の二木。
しかし沖田がこの意見に反対した。
「いや、それだと目的の人物に確実に接触できるか怪しいですぜ。別の奴が接客に当たったら外しちまう」
「そうですね。怪しまれず、店内を自由に探れる位置に行かないと」
「・・・あれ?雛乃ちゃん、それって」
「え?」
山崎の指摘が入り、雛乃は首を傾げる。だが、他の皆は気が付いたようだ。
その場にいる全員の視線が、雛乃に集中する。
「え、あの、何ですか?」
未だ一人、どういう状況になっているのかわかっていない雛乃は問いかけた。
そんな彼女に、山崎が教える。
「怪しまれず、店内を自由に探れる立ち位置って・・・メイドさんじゃない?」
「そうなると、メイドとして潜入調査を行うのが有効ですねィ」
「かと言って、男がメイドとして働くなんてカマバーみてぇで気色悪い上に、まず雇ってもらえねぇだろ」
そこまで言われて、雛乃はやっと、自分に集まった視線が何を意味するのかを悟った。
「わ・・・私にメイドとして潜入しろと!!?」
全員が頷きを返し、幹部による会議の結果、雛乃がメイドになることは決定したのだった。