小話
□某月某日の真選組屯所(後編)
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足元見られてて癪だったけど、かと言ってタイムマシンなんて作れる知り合いが他にいる訳でなし、結局10万
円払ってぬめぬめしたウェットスーツのようなタイムマシンを借りた。
「これで本当に過去に戻ったり帰ってきたり出来んだろうなあ?」
スーツを着込んだ銀さんが顔をしかめる。
「もちろんじゃ。腕時計に行きたい時間と場所をセットして胸のボタンを押せば10秒後に出発じゃよ」
「腕時計ってこれですか。ていうか、この胸のボタンてウ○トラマンみたいですね」
胸の真ん中で青く光っているツルツルしたボタンだというものを触りながらそう言うと源外さんが頷いた。
「まさしくそれをオマージュしたスーツじゃからな。3分前になったら黄色くなって2分前に赤くなる。点滅し始
めたら1分前じゃ」
「○ルトラマンていうより、信号機じゃねえの。で、この時計で時間合わせりゃいいんだな?」
「そうじゃ」
「じゃあ、ぱっつぁん、今朝の8時ジャストに合わせるぞ。ちょうど鉄が洗濯掃除終わらせて部屋に引っ込む頃だ」
「わかりました。8時ですね」
時計を合わせて、源外さんにも確認してもらってから胸のボタンを押す。ボタンはみるみる青く輝き始めた。
「んじゃ行ってくるわ」
銀さんが源外さんに手を上げた。
「おう、気をつけて行ってこい。そのタイムマシン使い切りじゃからな。一回で目的を果たせないと次はないぞ。
あとな、一つだけ大事なこと言い忘れておったが、万が一にも過去の自分自身と鉢合わせするなよ。そんなことに
なれば大爆発が起きて世界は消滅する」
ちょっと待て‼
シンプルかつ安全なタイムマシンじゃなかったのかよ!? 大爆発が起きて世界は消滅ってどんなハリウッド
アクションだよ!? もしかして今世界は僕らの双肩にかかってるぅ!?
「ったく、わかっちゃいたがとんでもねえ爺いだな! 土壇場でとんでもねえことぶっ込んできやがって!」
銀さんが叫んだ時には、もう源外さんの姿は目の前から消えて、気がつけば僕らは屯所の中庭に立っていた。頭
の上には爽やかな青空が見える。源外さんのところにいた時は夜だったから、時間と場所を飛び越えたのは間違い
ないみたいだ。
屯所の中からはふんわり朝ご飯の気配が漂ってくる。
「とりあえず、誰にも見つからないうちに移動するぞ」
「はい!」
急いで、自分の部屋に行こうとしたら、銀さんが反対方向に動き出した。
「どこに行くんですか?」
「まずは土方のパンツだろうが! 私情を優先してんじゃねえぞ!」
あんただって私情だろうが!
仕方なく銀さんについて行こうとして、
「うわぁ!」
思い切り転んだ。
「大丈夫か!?」
と聞いてくれる銀さんも尻もちついてますけど…。
「なんじゃこら!? 死ぬほど動きにくいじゃねえか!」
ヌメヌメスーツもといタイムマシンがヌメヌメし過ぎて上手く走れない。どころか、
「うぎゃ!」
立ち上がろうとしてまた滑る。
「俺たち歩き始めたバンビちゃんかよ!?」
何とかヨロヨロ立ち上がった銀さんが唸った。
その時、
「…………」
誰かが話しながら近づいてくる。
「隠れろ!」
自分自身だったら大爆発だ!
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