小話

□某月某日の真選組屯所(前編)
3ページ/7ページ


「犯人はあいつらなんだよっ! だいたいわかってんだよ!」

 熊みたいにそこらを落ち着きなくうろつきながら銀さんが唸っている。。

「あいつらって?」

「この屯所内にいる隊士のどいつかだ!」

「それ、全然わかってないじゃないですか。てか、本当にこれって事件なんですか? 犯人なんているのかなぁ?」

「まったくだ。いい加減なこと言ってんじゃねえぞ。大したことねえことを荒立ててんじゃねえよ」

 目を血走らせている銀さんに山崎さんと土方さんが窘めるように声をかける。

「でも、自分は事件だってことには同意っす。絶対風で飛んで行ってない自信があるっす」

「おうよ!」

 鉄之助さんが空気も読まず銀さんに同調した。それに力づけられたのか、銀さんはカッと目を見開くと土方さん

をビシッと指さした。

「土方クン! おめえ、わかってなさすぎる! ダメだ!ダメだよ! マジこのままじゃやべえよ! ホントダメ

なこと山のごとしだよっ!」

「るせえわ! ダメだダメだ連呼すんじゃねえ! 一体俺が何をどうわかってねえって言うんだ!」

「真選組隊士のほとんどの奴等がおめえのこと狙ってるってことをだよっ! あいつら、おめえの色気にあてられ

やがってハイエナ化してるんだぞ! あいつら今じゃもうただの飢えたオオカミだからね? 土方クンは子羊さん

だからね?」

「アホかぁぁぁっ!! なわけあるかっっ!! ってか、以前だって俺に横恋慕しているとかいう妙な勘繰りをて

めえがしたせいで何人もの隊士が半死半生になっちまったんだぞ! てめえ、真選組を瓦解させる気か !?」

 土方さんが吼える。

「勘ぐりなんかじゃねえよっ! あれは間違いねえ。完全な事実だ!」

 負けずと銀さんが吼えた時だった。



「トシィっ!」

 近藤さんが飛び込んできた。

「大変だ! 大変なんだ!」

 半泣きで土方さんに縋りついてくる。

「近藤さん? いったいどうしたんだ!?」

 驚いて土方さんが聞いたところで、銀さんが近藤さんを殴り飛ばした。

「なに気安く人の彼女に抱き着いてんだよ!?  ああっ! 言っとくがてめえも犯人のワンオブゼムだから

なっ」

「は? え? え?」

「いい加減にしろ! 近藤さんが犯人な訳ねえだろ! 妄想も大概にしろ!」
 
 土方さんが銀さんを怒鳴りつけると近藤さんの方に向き直った。

「で? いったいどうしたんだ?」

「そ、それが、俺の持ってるお妙さんの……、俺の大切なお妙さんの……」

 姉上の名前を気安く連呼するストーカーにイラッとした。一体ゴリラストーカーが何持ってたって言うんだ?

「お妙さんの真っ白でフリフリの……」

「真っ白でフリフリ……?」

「うん。真っ白でフリフリのパ……げほおおおっ」

 思わずゴリラを殴り飛ばしていた。

「真っ白でフリフリのパって何だよ!? パって?」

 真選組局長として、己の雇用主として、これまでいくつもの姉上への無礼に目を瞑ってきたけれど、これはもう

限界だ。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ