小話
□某月某日の真選組屯所(前編)
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「わかりましたっ! 言います! 副長の干してあったパンツが紛失しましたっ!」
やけくそになって山崎さんが叫んだ。土方さんの顔が内容を理解した途端固まった。そして、ギギギギっと首を
まわして後ろを窺う。
「何だとおっ!? 土方クンのパンツが盗まれたぁっ!?」
それまでやる気のない顔で土方さんの後ろにいた銀さんが叫んだ。
あ〜あ。寝た子を起こしちゃったよ。真選組随一の面倒臭い大魔王の降臨だよ。
銀さんと土方さんが男同士でありながら恋人同士として付き合ってることがわかったのは、ほんの少し前のこと
だ。 鬼兵隊から土方さんを救出した宇宙船の中で銀さんが突然カミングアウトしたらしい。衝撃的な告白だった
にも関わらず、みんなからは好意的に受け入れられて、今では二人の仲は完全に公認になっている。僕も、兄貴と
して背中を追いかけていた銀さんが別世界の扉を開いてたっていう衝撃は結構大きかったけど、考えてみれば、こ
んな型破りな人が普通の女性を選ぶわけなんてなかったんだ。今じゃすっかり納得している。神楽ちゃんなんてすっ
かり大喜びで土方さんに毎日ベタベタくっついているくらいだ。
ただ、ちょっとだけ誤算があった。
何が誤算だったって? カミングアウトしてからの銀さんは、土方さんのこと大好き!って態度を四六時中駄々
洩れさせてるとても残念な大人になってしまったのだ。僕のことを童貞童貞と散々馬鹿にしてるくせに、銀さんも
純粋な恋愛に関してはほぼ童貞に近かったんじゃなかったろうか。そんな銀さんは土方さんが恋人になったことが
嬉しくて仕方がないらしく、やたらと僕に二人の仲を見せびらかしてくるのだ。この前だって、報告しようと土方
さんの部屋の障子を開けたら、銀さんが土方さんに覆いかぶさるみたいにしてキスしていた! 他人の気配に敏感
な二人が僕が障子開けようとしてること気付いてないはずないのに! というか障子開ける前に声かけたわ! 慌
てた様子で離れてみたって遅いんだよ! 土方さんは真っ赤な顔してるし、こっちをチラッと見た銀さんはやたら
とニヤニヤしていた。 うぜえ!!
そして、もう一つ。こっちの方がより深刻なんだけど、銀さんてとんでもなく嫉妬する人だったのだ。かつての
飄々としていた銀さんはどこにいっちゃったの? それともあっちの方が僕の見た幻覚だったの!? って言うく
らい。
「人間の性格なんてえのは結構いい加減なもんでさぁ。変わるときは右から左。極端から極端に変わっちまうもん
よ」と言うのは沖田さんの弁なんだけど、意外と真実をついているのかもしれない。土方さんと仕事上絡むことが
多い山崎さんはともかく目の敵にされてるらしく、
「見せびらかされる? キスなんて甘いよ! 俺なんて、俺なんてね……!」
と血走った眼で叫んでいた。「何で俺に焼餅焼くんだよおっ!」と憔悴した顔で呟く山崎さんを見ていると、ゆ
めゆめ銀さんに疑われるような態度はとらないようにしなくちゃと思う。
その銀さんの前で、土方さんのパンツが盗まれたことがわかったのだ。もう、これは大変だよ。
嫉妬を隠そうともしない銀さんのこと土方さんだって結構持て余してるくせに。ちょっと申し訳なさそうな顔で
僕らを見る土方さんに、僕も山崎さんも思いっきり憮然とした顔をして見せた。もっとも鉄之助さんは変わらずき
らきら顔してたけど。
「新八! 真選組副長パンツ盗難事件特別捜査本部を結成するぞ!」
銀さんが宣言した。あ〜あ。
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