小話

□過ちと百万の後悔 後編
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「土方は可愛いのう。」

試合のために去っていく土方の背を見ながら、辰馬が顎に手を当ててそうでかい声で

呟いた。

「うむ、おもいきり構い倒したくなる可愛さだ。」

ヅラがそう答えた。

「な、・・・なに言ってんだ!おかしいんじゃねえの?!お、同じ男だぞ!」

辰馬とヅラの言葉に変に焦った。

「何言っちょる。金時が一番に土方のことかわいがっとるがのう。」

辰馬が恥ずかしげもなしにそんなことを口にし、

「おんし真っ赤になっちょるぜよ。」

さらにくだらないことを指摘したので、俺は辰馬の頭頂部に思い切り拳をくれて、黙

らせた。



土方はその大会の決勝の大将戦で敗退した。

次鋒の高杉が勝って、俺達の学校は優勝だったけど、土方は表彰式をすっぽかした。





「くそっ、くそっ!」

土方は会場の裏で壁に向かって肩を震わせていた。

「土方・・・。」

背後から声をかけると、ごしごし顔をこすってから俺の方を見た。

「銀時・・・。」

「ったく、泣き虫だな。」

「うるせえっ・・・・!べつに、泣いてねえ・・・・!」

「ああそう。」

あっさりそう言って、伸ばした手で瞳に残った涙をすっと掬うと、ばつが悪そうな顔

をして口をへの字にする。

「それは、汗だ・・・・。」

意地っ張りらしいその言葉に思わず笑みが零れた。

「たしかに、暑いもんなあ。」

夏休みも暑さも真っ盛りの時期だった。

持ってきたタオルを土方の頭にかぶせた。

「着替えようぜ。さっさと引き上げるぞ。」

「・・・・・おう。」

「ンで、帰って稽古でもしますか。」

「え?」

「したいんだろ?稽古。」

土方がぼんやりと俺を見つめる。

「もっともっと強くなりてえって、今すぐ稽古してえって顔してるじゃねえの。」

「・・・だって、てめえ、稽古嫌いじゃねえか。今日だって早く帰りてえってずっと

言ってたくせに。帰ってパフェ食いたいって・・・・。」

「仕方ねえじゃん。そんな、食いつきそうなギラギラした目でいる土方くんをこのま

ま野放しにしたら、どこで何しでかすかわからねえし?」

「ふざけんな!クソ天パ・・・!」

唸る土方の瞳が揺れた。

「・・・・本当にいいのか?」

「あとでパフェ奢ってね。」

「・・・・おう。」

また涙を浮かべた土方に背を向けると、ぐすっと鼻をすする音とともに

「ありがとう・・・。」

という言葉が小さく小さく聞こえた。

胸が甘く疼いた。



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