小話

□過ちと百万の後悔 前編
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今から3年前中学2年生の時、俺は同級生の男とセックスをしているところを教師

に見つかって処分を受けた。

噂はあっという間に広まった。



俺は、それまで学校内で評判が悪い方ではなかった。いや、寧ろ教師からも生徒から

も一目置かれた存在だったと思う。

「十四郎くんは、成績優秀で、スポーツ万能、それでこの容姿、いやあ学校ではモテ

モテですよ!」

事件の直前に行われていた三者面談で教員はそう俺のことを親に説明したものだっ

た。

だが、その頃俺達はほぼ半年に亘ってその行為を続けていた。

「抱かせてほしい。」と幼友達だったその男に必死の形相で頼まれて、断りきれずに

始まった関係だったが、その行為の齎す圧倒的な快感にいつしか俺自身も溺れきって

いた。

互いの家でだけでは足りず、学校の使われていない体育倉庫でも隠れて繰り返し行為

に耽っていた。

細心の注意を払っていたつもりだったが、倉庫に残った臭いに感づいた教師に見つか

り、事が露見したのだった。




停学明けの教室で級友たちは、俺の姿を認めて戸惑い気味ではあったが、まだ決して

敵意や蔑みを含んだ感情をぶつけてきはしなかった。

俺は奢っていたのだ。

それまで自分を取り巻いていた高い評価が自分自身を護ってくれると信じて疑って

いなかった。そんなもの砂上の楼閣に過ぎなかったのに。

「土方くん!嘘だよね?」

おそらくとても勇気を出して近寄って来てくれた女子生徒に俺は冷たい一瞥を投げ

かけた。



同情されることに慣れていなかった。

他人から下に見られることが堪らなかった。

俺は、鼻持ちならない傲慢な人間だった。



「・・・・全部、ホントだ。同情か?余計なお世話だ。近づいてくるんじゃねえよ!」

彼女の衝撃を受けた顔を忘れることはできない。

俺は、そうしてクラス全員を、やがて学校全員を敵にまわした。





弱者に転がり落ちた俺への激しい虐めがスタートした。

モノを隠す、破く、壊す。落書きはそこら中に頻繁にされた。

「ホモ!」「変態!」「キモい!」「死ね!」そんな言葉を毎日のように投げつけられ、

机やロッカー、鞄や靴に書かれた。

俺の相手だった幼馴染の男は一度も登校することなく停学明けからしばらくたった

ころ、遠方に引っ越していった。

俺は前を睨み据えて、平気なフリをしつづけた。

1年して高校に上がるまでの我慢だと。

でも、高校に上がっても噂は俺にまとわりついて離れず、虐めはより陰湿になって続

いた。

1年の終わりごろに俺は血を吐いて倒れた。

神経性の胃炎が慢性化して悪化した結果だった。

2年生に上がるときに両親が俺を転校させた。




高校に上がった時にも清算できなかった過去の罪に、新しい生活への期待などすっか

り失くして、心を閉ざしたまま転校した俺の前に現れたのが銀時だった。



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