小話

□Hotel Cävalry ・・・R18
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街が夜のしっとりした闇に包まれて数時間が経った頃、

「ここだよな?」

「みてえだな…」

銀時と土方はちょっと気後れするようなオシャレなホテルの前で二人佇んでいた。

「ここ、あいつらには高すぎるんじゃねえのか?どうやって算段つけたんだ?ってか、本当

にここなのか?お隣りのちっこいホテルじゃねえのか?」

土方が心配そうに銀時に聞いてくる。確かに、小遣いから捻出するのは厳しそうなハイグ

レードな外観である。

「ん〜」

 銀時は「Hotel Cävalry」と黒地に紫で書いてあるカードとホテルの入り口の瀟洒な銘板を

見比べた。

「やっぱここよ。まあ、吉原にも知り合いいるし、そこら辺から調達したのかなあ、とか思

うんだけどね」

「そうか」

 土方がため息をついた。

「あいつらにまで気ぃ使わせちまったな…」



このホテルが何かと言ったら、神楽と新八からの結婚一周年のお祝いだ。


「銀ちゃんとトシが好きなものを考え抜いた結果アル!」

「結婚1周年おめでとうございます!楽しんできてくださいね」

そう言ってラブホテルの会員券(無料回数券付き)を渡されたのである…。

子どもたちにラブホの会員券貰うなんて、保護者として複雑すぎる…。複雑すぎるけれど、

と思いながらも受け取ってしまって来てしまったのには、それなりの理由があった。

 背後で闇に紛れるように漆黒の隊服が動いている。それを横目で確認すると土方はもう

一度ため息をついた。





不死者になりかかった銀時が意識を取り戻してから1年が経つ。

誰にも祝福された新婚カップルとして、さぞかしイチャイチャ熱々な日々を過ごしてい

たかと思われた二人だったが、実際はそうは問屋が卸さなかった。熱々だったのは間違いな

かったけど、イチャイチャについてはまったくそうではなかった。

なぜならば、土方が真選組に帰参しなかった事で、真選組隊士一同の不満が大爆発したか

らである。



 2人でイチャイチャしようものなら、すかさず撃ち込まれるバズーカ砲。現れるゴリラ。

仕事を依頼しに飛び込んでくる地味〜。

夜、万事屋の部屋でいい感じになったとすると、突如、下のお登勢の店で2人を肴にした

酒盛りが始まるのである。寝ていれば床下からの話し声や物音は否応なく耳に入ってくる。

勃つものだって勃たなくなるし、集中力だって欠ける。すべてわかった上での真選組隊士一

同の嫌がらせだ。

仕方ねえと、町のラブホに行けば周りの部屋に真選組隊士が調査だとか何だかんだと理

由をつけて踏み込んできたりする。はっきり言って、かぶき町にあるラブホのほとんどは、

スネに警察に踏み込まれたくないようなキズの一つや二つくらいはあるから、2人が帰ると

きには「あのさア、銀さんとトシさんには悪いんだけど、」とやんわり次の利用を断られて

しまう。



「ざっけんじゃねえぞ!バカ野郎!!」

 銀時は激怒して、

「絶対、土方のこと返さねえ!!」

と憤っている。正直、土方としては、ここまで拗れるくらいなら真選組に戻ったって良かっ

たのだけど、今じゃ銀時の方が意地になってしまっているから戻るに戻れない。



「そもそもは、俺がいない方が総悟といい、近藤さんといい、しっかり仕事するようになっ

て真選組のためにも良いと思っただけなんだけどな…」

 ある夜に、土方が漏らした言葉に、神楽も新八も切ない思いがしたものだった。



 そんなこんなでかぶき町から離れた街のラブホの会員カードのプレゼントだった。





「行こうぜ。あいつらも頑張って手に入れてくれたんだろうし」

 銀時がホテルのカードをひらひらと振ると、蝶のホログラムがちらちらと浮かび上がる。

「ここ、相当セキュリティもしっかりしてそうじゃん。あいつらもさすがに踏み込んでこれ

ねえんじゃね?」

そう言うと、銀時は、後ろで2人の様子を窺っている「副長を返せ!真選組突撃部隊」の

面々に親指を下に向けて「地獄に落ちろ」とサインを送った。土方は苦笑いすると、銀時の

頭を軽くはたき、隊士達に「いい加減帰れ」と声をかける。

「ま、せっかくだからな」

 教育上の問題は置いといて、子どもたちからの心尽くしだ。

「おうよ」

銀時は、嬉しそうに口角をあげると、最近、ちょっと元気のない愛妻の腰に手を回して高

級ラブホの玄関に足を踏み入れた。
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