恋情の記憶(R18)

□記憶 その4
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「土方・・・・。」

苦しげに俯く土方の顔を俺は両手でそっと包み込み、その瞳の中を覗き込んだ。

「じゃあさ、俺のために生きててよ・・・・・。」

「・・・え?」

土方が驚いたように俺を見る。

「今までおめえが大切に思ってものは、みんななくなっちまったかもしれねえ・・・。

それは、俺もどうしてやることもできねえけど、俺のことを、その・・・・たとえば、

友だちくらいの気持ちで見ることはできねえ?」

「友だち?」

土方がとまどったように言葉を返した。

「友だちっつうか、・・・つまりさ、俺は、おめえが死んだら嫌だ。つうか、絶対耐え

られねえ・・・。嫌味言ったりとか、喧嘩したりとかしかしてこなかった俺がこんな

こと言ってもあんまり真実味ねえかもしれねえけど、俺は本当のとこおめえが嫌いじ

ゃねえ。・・・・つうか・・・。」

土方が俺をじっと見つめ、俺の言葉に耳をそばだてているのを感じて、俺は覚悟を決

めた。

「おめえが好きなんだ・・・・。

ドン引きされるってわかってたから、ばれねえようになるべく素っ気ないふりして過

ごしてたけど・・・・、」

俺は大きく息を吸った。

「俺は、おめえにどうしようもねえほど惚れてる。嘘じゃねえ。気持ち悪いかもしん

ねえけど、本当なんだ・・・。」

決して聞き間違いのないようはっきり土方に告げた。

土方の目が大きく見開かれた。

「だから、生きてて欲しいんだ・・・。気持ち受け入れろとか、そんなことまで言わ

ねえ。でも、おめえが死んだら俺も生きていられねえ。」

土方の口が小さく動いた。

「・・・嘘だろ?」

「嘘じゃねえって。長い長い片思いなんだ。せめて、それはわかってくんねえ?」

土方がかすかにかぶりを振る。

「ありえねえ・・・・。」

「それが、あるんだって。信じてよ。」

俺は必死で土方に訴えた。

「本当なんだ・・・。」

土方の呆然とした顔を見て、やはり気持ち悪いのかと俺は悄然として俯く。

土方が聞こえるか聞こえないかというほどのかすかな声で何かを呟いた。

「・・・・・は俺の方だ。」

「え?」

「・・・・じゃねえ。」

「なに?」

目をあげると、土方が信じられないように俺を見つめていた。

「片思いしてたのは、てめえじゃねえ・・・。」

「・・・って、どういうこと?」

心臓がとくんと跳ねた。

土方がありえないというようにもう一度首を振った。

「土方?」

両肩を掴んで、顔を覗き込む。

土方は観念したように目を閉じ、そして言った。

「・・・惚れてんのは、俺の方だ。 認めたくもなかったが、てめえのことがずっと・・・・。」

土方は目を開いた。

「好きだった。」

土方の瞳に浮かんでいる光が頼りなげに揺れた。

「こんなマダオどこがいいんだっていつも思ってたのに・・・、いつもどうしようも

なくてめえに惹かれてた。」

「土方・・・。」

そっと土方の頬に手を伸ばした。

土方は俺の手に頬を添わせて目を閉じた。

俺は身を乗り出して、土方の唇に己のそれをのせた。

土方の唇はかすかに震えていた。あるいは、震えていたのは俺の唇だったかもしれな

いけど・・・。



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