恋情の記憶(R18)

□恋情 その6
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「土方。」

翌朝、仕事に向かうためにマンションを出ると、案の定銀時が近づいて来た。

無視して歩こうとするが、肩を掴まれて顔を覗き込まれた。

その表情がひどく愛おしいものを見つめるようで、胸の中がふっと熱を持つ。

その熱さを断ち切るように、唇をぐっと引き結んだ。

昨日、マンションに連れ込んでしまったのは失敗だった。

同じ空間に閉じ込められたら、抑えられない感情が蠢きだすだろう事は予想できてい

たというのに。

「何だ。」

冷たい声で答える。

銀時の顔が一瞬怯んだ。

だが、気を取り直したように、笑顔を浮かべると、

「俺と一緒に住まねえ?」

と言った。

「馬鹿馬鹿しい。何言ってやがる。」

睨んで一言で切り捨てる。

「馬鹿馬鹿しくねえよ。昨日、キスしたじゃん。おめえだってその気になってたろ?」

「はっ、キス一つでその気?ガキじゃあるめえし。てめえに合わせてやっただけだ。」

鼻先で笑う。

土方の冷えた目を銀時はじっと見つめた。

土方は、腹に力を込めて見返す。

銀時の目がほころんだ。

「だめだな。そんな嘘、通じねえよ。」

銀時がにっと笑った。

「嘘だと?!」

「そんな余裕ない顔で、そんなセリフ言っても全然真実味がねえってこと。」

「なにを・・・!」

「あのさ、おめえが俺にべたぼれで今でも俺が欲しくて欲しくて仕方がねえのは、わ

かっちゃってんだよ。だから、おめえが、どんなに頑張って冷たい顔しようがそっけ

なく振る舞おうが意味ねえんだよね。」

土方の瞳が揺らいだ。

「・・・・土方。」

両腕を掴んだ。

このまま、連れていっちまいてえ。

なんでそんなに必死で想いを隠そうとするのか。それとも、戻らない記憶が感情に混

乱を生じさせているだけなのか。

感じる衝動のままに身を任せて欲しいと思う。

イチゴ牛乳を飲みながら、ほかの男の愛人になるくらいなら、俺の腕に飛び込んでき

て欲しい。

どう考えたって俺に惚れてるのに、おめえが別の野郎のモンだなんて我慢ならねえ

よ・・・!

「なあ!」

腕を掴む手に力を込めた。

抱き寄せてしまおうかと思った瞬間、ぐっと体が傾いだ。

あれ?

と思った時には、視界が回転していた。

ドスン

慌てて受け身を取ったが、したたかに背中を打ちつけて一瞬息がとまった。

目の前に青空が広がっていた。

(・・・・・巴投げかよ。)

銀時は青空を見上げて、苦笑いした。

身を起こせば、土方の背中が角を曲がって消えるところだった。

「くそっ、逃がすか!」

毎朝のように張ってるのに、これで逃したら3日連続で姿を見失うことになる。

朝は絶対付いてこさせないように逃げるくせに、帰り道は結構平気で声をかけてきた

りする。ということは、昼間に行ってる職場を隠したいのか?そこに何かおめえの現

在の生き方の鍵になるもんでもあるのか?

銀時は立ち上がると全速力で逃げる土方の後を追った。



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