恋情の記憶(R18)

□恋情 その5
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「ひっじかったくん、どこ行くの?」

朝、仕事に行くためマンションを出たところで声をかけられ、思わずびくりと肩があ

がった。

視線を走らせると、思った通りの紅い眼が眠そうに土方を見ていた。

「どこでもいいだろ。てめえに喋る義理はねえ。黙秘権だ。」

ぶっきらぼうに返事をした。

「黙秘権ねえ・・・。」

たるそうに呟くと、そのまま土方の後をついてくる。

「ついてくるな。」

銀時を睨んだ。

まずいところで会った。

と思う。

警察官なんぞについてこられたら、あいつらが心配する。

「ちっ。」

ひとつ舌打ちをすると携帯を取り出す。

「今日は、少し遅くなる。いや。別に体調は悪くねえよ。仕事一つすませてから行く

から。」

携帯に話しかける土方の様子を銀時がじっと見つめる。

「なんだよ。」

携帯をパタンと閉じると、土方は銀時の視線を跳ね返すように目に力をこめた。

銀時はその視線をたじろぎもせずに受け止めると、訝しげな表情をした。

「土方くんはさ、なんかどっかで仕事してんの? 愛人てのが仕事なんじゃねえの?」

「は? 愛人は別に仕事じゃねえよ。俺は武田から金を受け取ったりはしてねえ。」

「そうなんだあ。」

銀時の顔が納得したような表情になる。

「そうだよな。おめえが愛人ヤッテ金もらってるってねえよね。」

銀時がぶつぶつ呟いた。

朝の光を浴びて、銀時の髪が明るく光っている。

触りたい。

ふと、強烈にそう思った。

この銀色の髪に触れて抱きしめたい。

抱きしめて、そして・・・・。



『土方、おめえが好きなんだ。おめえにずっと惚れてた。』

耳元で甘い囁き声がした。

土方の足がぴたりと止まった。

目が驚いたように見開かれた。

銀時は数歩離れたところをぼんやりした顔で歩いている。

この距離で、今のが奴の発した言葉の訳がない。

なのに、奴の声だった・・・。

幻覚の中でだけ聞こえる声だった・・・。

体が震えだす。

「てめえは・・・・、てめえは一体何者なんだ・・・・?」

掠れたような声を土方が絞り出した。



銀時は、土方と肩を並べるとその顔を覗き込んだ。

何か思い出しかけてるのか?

銀時は細かく震える土方を見つめながらゆっくり口を開いた。

「俺は、坂田銀時だ。今は警察官してるけど、前は。」

土方がぱっと銀時の方を見た。瞳孔がカッと開いている。

「前は、万事屋の亭主してた・・・。」

ゆっくりと、解いて聞かせるように土方に告げた。



ガツッ



唐突に激しい衝撃を顎に食らって、銀時はどさりとその場に倒れた。

「いってええっ・・・。」

気がつけば、はるかかなたを土方の背中が走り去っていく。

「ちょ、ちょっと酷くねえ?! なんでいきなり拳骨ぅ!」

叫ぶが、とても土方の耳には届かないだろう。

「ちぇっ、生まれ変わってもパニくると暴力に訴えるとこ変わんねえ。」

口に出してそうぼやいてから、銀時はにやっと笑った。

確かに、土方は何か思い出しかけてる。それが何だかはわかんねえけど、俺のことを

思い出しかけてた。


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