1.5W副長(第二部) 完結

□第25章 奪還 その質
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「攘夷浪士どもの処刑の準備は調ったのかい?」

一橋喜々が端正に整った顔を少し傾け視線を佐々木異三郎に投げた。

「は、正午すぎには予定どおり執り行えるよう万端滞りなく差配してあります。」

佐々木は慇懃に腰を折って頭を下げる。

 
「それはご苦労だったね。浪士どもはみんな大人しくしてるのかな? 君が興味を

持っていた真選組の副長さんの・・・何だっけな、とか?」

「真選組副長の土方十四郎です。・・・彼は、まあ、大人しくはしていないでしょう

ね。局長の近藤に強い忠誠を誓っているようですから。」

佐々木の口元がちらと緩む。

「ふふ、じゃあ、もしかしたら、今日、君が執心していた彼にまみえることもでき

るかもしれないね。」

喜々が楽しそうに笑い、佐々木の口角がさらに上がった。

「ええ、彼はおそらく己が大将を奪還すべく、たとえ単身でも乗り込んでくるでし

ょう。」

「何か手は打ってあるのかな?」

「城中のあらゆる場所に網を張っております。その数、約三千。つまらぬ策の

ように思されるかもしれませんが、数の論理というのは非常に有効なのです。」

「つまらないなんてちっとも思っていないよ。それにしても、我々がこれだけやり

たい放題やって、定々殿はお怒りになられないかな? 血圧をあげ過ぎて倒れたり

してくださったら都合いいんだけどねえ。」

喜々が皮肉な嗤いを異三郎と交わす。



将軍茂々が倒れて以来、ただでさえ懐疑的な定々はいよいよ他人を信じないように

なり、警察庁長官の罷免追放、真選組の粛清と本来なら自分自身の守り刀ともいえ

る警察機構を滅茶苦茶な壊滅状態に追い込んでいた。

その後、組織の立て直しや機密情報の保持と言った重要な進言にも一切耳を貸さ

ず、頑なに自分が至高の存在であるという虚ろな事実に閉じこもっている。



「まあ、旧い幕府勢力が衰えることは僕たちにとっては極めて好都合だけど。今回

の攘夷浪士どもの処刑執行を無事済ましたら、今度は君の警察庁長官就任だ。」

喜々が機嫌よく肩をゆすり、佐々木は無表情に頭を下げた。



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