1.5W副長(第二部) 完結

□第8章 bitter chocolate その伍
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夜の帳が落ちて数時間、街は深い眠りに包まれている。

かつては大大名たちの屋敷が軒を連ねていた界隈は、今では天人の邸宅が立ち並

び、この星の人間たちがめったに足を踏み入れることもない一帯となっている。高い

塀に遮られ街灯の光は邸内にはほとんど届かないのだろう。11番隊が屯所と称して

いる館はこのうちでも特に広大な敷地を占めて闇の中に黒々と存在感を示している。

鼻先をかすめた甘い香りはどこかの屋敷に植えられた梅の花のそれだろうか。



銀時と土方は忍者のような黒装束で監察隊の出動に紛れて屯所を脱出していた。

いかにも攘夷浪士の潜伏先を探る様子で薩摩屋敷まで出動し、そこで屋敷の脇を抜け

た。

「監視していた連中もここまでは追ってはこねえだろう。」

そう呟きながらも11番隊の館を眺める土方の眼には隠しようもない緊張の色が浮か

んで見えている。





「11番隊を潰す。」

攘夷浪士の仕業に見せかけ、二度とふざけた警察ごっこなどやろうと思わせないよう

に、徹底的に叩き潰す。

土方は敵にも味方にも知られずに密かに11番隊を葬り去ることを決意していた。

真選組の名に泥を塗った奴らを許すつもりはない。

だが、万が一にも正体を知られ、真選組の隊士が11番隊に危害を加えようとしたこ

とが顕かになれば、天導衆の名のもとに真選組が抹殺されることは必定。たとえ将軍

であろうともそれを阻むことはできない。



「もしも顔を見られるようなことがあったら・・・、」

土方が厳しい眼差しで銀時を見つめた。

「てめえはそのまま逃げろ。真選組に戻ってくることはない。」

銀時が眠そうな半眼で土方の顔を見る。

「・・・・おめえはどうすんのよ?」

「俺は・・・、姿を見られることはねえ。」

銀時はすっと目を細めると土方の胸元に手を伸ばした。

退こうとする土方の袷を素早く握り、ぐっと開く。

「何コレ?」

土方の体にはぐるりと爆弾が巻かれていた。

「おめえよお、俺のことがそんなにアテになんねえ?ハナから死ぬ気かよ。」

「そういうわけじゃ・・・。」

土方は銀時の手を払いのけると、視線を逸らす。

「だが、顔を見られちまったら終えだ。そうなったら相手を巻き込んで死ぬしかね

え・・・・!」

「・・・だったら俺は?」

「てめえのことは、バレたら真選組に潜り込んだ攘夷浪士だったと言い張るように山

崎に話してある。追っ手がかかってもてめえなら逃げ延びられるだろ?てめえな

ら・・・白夜叉を受け入れる奴らならいくらでもいるはずだ。」

タブーとしている言葉を口にした土方に緊張の度合いの強さが窺えた。



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