1.5W副長(第一部) 完結

□第17章 裏切り その肆
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「へっくし!」

間抜けなくしゃみが出て、銀時は苦笑いを零した。

ここまできつい思いをしてるのに、なんだか、シリアスになりきれねえよなあ。

日の長い季節だったが、太陽の光が白々と差し込んでくるこの時間になると少し肌寒

い。

土方がいる宿の部屋を見上げた。

あの場にいることが耐えられなくて宿から飛び出した。

銀時が飛び出さなければ、土方の方が飛び出したろう。

土方を外に出したくなかった。

だから、銀時の方が出てきた。



俺は、土方がときおり見せてくれる笑顔に期待しすぎていた。

憎まれ口の中に潜む優しさを勘違いしていた。

無意識のうちに、好きだと打ち明ければ、あいつを俺の方に振り向かせることができると、自惚れていた。



土方のいる宿に背を向け、銀時は歩き出した。










こんな早朝では、火炎党の連中はそれぞれ寝所として与えられている

離れに行っているのだろう。母屋にはひと気がなかった。

銀時は、部屋の中ほどに置かれている長椅子のところまで歩いていくとどさりと座り、

両手に顔をうずめて、ため息をついた。




がたりと音がして、戸が開く。

目を上げると鬼島と真島が入ってくるところだった。

「あん。早いな。あの別嬪さんはどうした?」

一人でいる銀時を見て、真島が声をかけてきた。

「フラれた。」

芝居でも何でもねえ本当のことだ。

答えると胸がきりりと痛んだ。

「フラれただぁ?」

銀時の言葉を聞いた鬼島が眉間にしわを寄せて、銀時に詰め寄ってきた。

「あいつは、今どこにいるんだ?」

「知らねえよ。逃げられた。」

鬼島が目をせわしなく動かして、銀時の姿を見た。

顔が殴られたように蒼黒く腫れている。

「逃げられただと?!!」

鬼島が怒鳴った。

「あの男に行きつくまで、何人の男と俺が手合わせしたと思ってるんだ?!やっと、

腕どころか顔や体まで絶品な奴を見つけたってのに、逃げられただとぉ?!!」

「しかたねえだろ。出ていっちまったものは。」

「貴様この落とし前、どうやってつける?!」

土方がいなくなったと聞いて、鬼島がいきり立つ。

「どうやっても、こうやってもねえよ。いねえもんは仕方ねえだろ。あいつは、もう

ここに戻っちゃこねえよ。」

胸倉をつかまれた銀時がだるそうに呟いた。

銀時の後ろで戸ががたっと鳴った。

背後から朝の光が一筋差し込んでくる。

「そうでもねえみてえだぜ。」

真島が入り口を見ながら言った。

はっとして、振り返る。

入り口に土方が立っていた。



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