1.5W副長(第一部) 完結

□第11章 変身
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「ずっと、好きでした。俺の恋人になってください。」

(へ?!)

思いがけない言葉が土方の部屋から聞こえてきて、ジャンプを読みながらごろごろし

ていた銀時は、ガバッと起き上った。

土方の部屋との間にある障子までそっと近づいて細く開ける。

さきほど、誰か隊士が訪ねて来たようだったけど・・・。

隙間から覗き込めば、ずいぶん体の大きい男が土方の前に、真剣な顔で端座している。

土方は、苦虫をつぶしたような顔つきで目を落として座っている。

と、土方が口を開いた。

「断る。」

(よ〜し。よく言った。もっと、思い切り完膚なきまでに突っぱねとけ。)

銀時は心の中で密かに土方を煽る。

「・・・どうしてですか?俺が男だからですか?」

「・・・それもある。」

隊士がごくりと唾を飲み込んだ。

「失礼ですが、副長は、男との経験は?」

銀時の耳がダンボになった。

「んなもんねえよ。」

「それでは、ご存知ないのではないですか?」

「は?何を?」

「誰かの腕の中でほっと安心するひと時をです。俺は、無理ばかりするあなたを見て

いて、ずっと抱きしめたいと思ってたんです・・・。」

隊士の声が掠れ、切羽詰ったものになる。

隊士は、膝が付くほど体をずいっと土方に近づけ、必死の形相で土方の顔を見つめた。

「俺には、そんなもん必要ねえ。 俺が、てめえとそういう関係になるなんてことあ

りえねえ。」

土方が冷たい表情で男を見返す。

隊士の体が揺れる。

「誰か好きな人がいるんですか?」

銀時は息を詰めた。

「いると言ったら?」

「・・・・諦めます。」

「じゃあ、いる。」

「じゃあって・・・!それじゃあ、諦められねえ!」

隊士はひと声唸ると土方の体に手をまわそうと腕を伸ばした。

思わず銀時の腰が浮く。なにしろ、体重差で行けば、土方の倍ほどありそうなデカ物

だ。

だが、次の瞬間、隊士の体は部屋の反対側にずしんと音を立てて吹っ飛んだ。

土方が拳を握りしめ立っていた。

隊士は口をわなわな震わせて、えづきながら土方を見た。

どうやら、思い切り腹に拳が入ったようだ。

「ふざけるな!」

土方が地を這うような声で怒鳴った。

「こんなときに、バカバカしい話をしにくるんじゃねえ!さっさと任務に戻れ!」

土方は、視線だけで斬り殺せそうな目つきで隊士を睨んだ。





「見せもんじゃねえぞ。」

隊士がその場を去って行った後も、怒りのオーラを立ち上らせていた土方がそう唸っ

た。

「しょうがねえじゃん。あんな大声だもん。見ちまうだろ。」

銀時は、障子をあけて、土方の部屋に入った。

土方は険しい表情で誰もいない廊下の方を睨みつけている。

やがて、舌打ちをひとつ零すと、不機嫌そうに呟いた。

「ひとのこと女扱いしやがって!」

土方は、怒りのせいで、目を潤ませ、悔しそうに唇を噛んでいた。

そういう顔で怒るから、こっちも煽られちまうんだよなあ・・・。

正直、さっきの隊士の告白は、銀時にとっても他人事じゃない。

「まあ・・・、平隊士たちにとっちゃ、おめえは憧れの的ってことなんじゃねえの?」

ちょっとだけかわいそうな振られた隊士のことをフォローしてみる。

だって、好きっていう気持ちを真っ向から拒絶する土方を見ていると心が痛い。

「憧れの的に、抱きしめたい、とかいうもんなのか?」

土方が苦虫をかみつぶしたような顔をする。

「う〜ん・・・。」

土方を抱きたくなる気持ちは、よくわかる。

涙に濡れた目で、せつなく唇を震わせながら、俺の腕の中にいるおめえ、っつうのが、

最近の銀さんの妄想ネタなんだけどさ、すっごくリアリティがあって、

まじ、この前鼻血がでた。

なんなんだろうなあ。

たいていの男よりずっと、腕っぷしも強いし、筋肉質だし、目つき悪いし、言う事き

ついのに、

なんか、抱きしめたいっつうか、可愛がりたいっつうか、甘やかしたいっつうか、

やっぱり、抱きたいというか・・・・。

どうして、そう思っちまうんだろう?

わかんねえけど、おめえとしちゃ、不本意なんだろうけど、

艶があるんだよ。おめえにはさ。

もしも、おめえが女だったら、銀さんすげえ迫りまくってると思うね。

まあ、おめえはあくまでも男の中の男だけど。

俺たちが男と女だったら、もっと簡単に恋人になれちゃったりしてたのかな・・・。
 
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