1.5W副長(第一部) 完結

□第6章  粛清
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「これが伊勢屋の内部なんだが。」

土方がさらりと図面を広げて銀時に見せた。

伊勢屋というのは、神宮党とかいう攘夷浪士の連中がアジトにし

ている商家だ。

「街道沿いの出入り口はここ一か所だが、裏手の大川に向いた部

屋はどこも大きく窓が開いていて、討ちいった際に逃げ出される

可能性が大きい。」

土方が図面を指さしながら説明する。説明を受けている銀時が内

容を頭に入れたであろう頃を見計らって質問する。

「てめえなら、どうやって攻める?」

土方の問いに銀時は頭をかいた。

土方と違って、俺、あんま頭脳派じゃないんだけど・・・。

「え〜と、街道沿いの入り口から本体で突っ込んで、あと、裏手

の土手にも隊士を配置しておく、かな?」

「ふ・・・ん。隊士の人数配置は?」

「ん、と、裏におく隊は一つ、残りの奴らを正面から・・・?」

「隊が一つじゃ、一斉に裏から逃げ出されたときに対応できねえ

ぞ。」

「そっか。じゃあ、隊は3つくらい?」

「指揮は?」

「裏の別働隊が総一郎君。正面がおめえ?」

「どうして総悟なんだ?」

「や、総一郎君たちなら残さず捕まえそうかなって。」

「なるほど、だが、総悟は納得しねえだろうな。あいつは、一番

リスクの高い前面からの斬りこみに誇りを持ってるからな。」

「そうか・・・。」

「天井のかなり低い部屋のようだが、闘いの中心はどこになると

思う?」

「あ〜、天井低いってことは、刀振り回しにくいってことか・・・。

そうなると・・・。」

土方は、こんな風に銀時を質問攻めにしながら、討ち入りの計画

を練り上げていく。

さっきから、何回も繰り返しさまざまなパターンを試している。

土方の頭の中では、いろんな考えがフル回転してんだろうけど、

ついてく俺は、へとへとだよ、コン畜生。

銀時は真剣な様子で図面を見つめる土方の横顔を見ながら、ため

息をついた。




と、その時、

「副長。」

部屋の外で声がした。

「入れ。」

土方は図面から目を上げずに声をかける。

山崎が障子を開けて入ってきた。

「すみません、お話し中。」

山崎の顔は何がなし緊張している。

「探索中、気になることがありまして・・・。」

そう言って、ちらりと銀時に視線をやる。

「あ〜、俺、頭使ってちっと疲れたから、食堂で糖分補給してく

るわ。」

銀時は立ち上がって、後で、と土方にヒラヒラ手を振った。

「悪ぃな。」

土方が銀時に小さく頷く。

二人きりになると山崎は声を低くした。

「大川の土手で神宮党を探ってましたら、土手のすぐ向こうから

声が聞こえたんです。どうやら、あいびき中の男と女のようだっ

たんですけど・・・。」

土方が頷いて先を促す。

「男が、君のためなら真選組だって裏切る、と。」

土方の目が光る。

「誰だったんだ?」

「それが、」

山崎が告げた名前を聞いて、あいつかと土方はその隊士の顔を思

い浮かべた。まだ入隊して間がないその隊士は真選組の隊士に珍

しく女好きのしそうな甘い顔立ちの若者だった。

山崎が耳にした言葉だけでは、具体的に何か行動を起こしている

かどうかまではわからないが、調べてみる必要はあるだろう。

場合によっては、粛清か・・・。

土方は小さく重いため息をついた。

「それで、どうしましょうか?」

山崎が聞く。

今、監察隊は全員、案件を抱えている。

「そうだな・・・。」

土方は目を落として、誰に探らせるか考えを巡らせた。
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