小話

□博打ダンサー
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高杉が去ってひと月ほど経ったころ、兄貴は道場の師範にまた男を一人呼び寄せていた。

道場を覗きに行った俺の目に飛び込んできたのは、ぐしゃぐしゃに跳ね散らかった銀髪に死んだ魚のような目をした男だった。瞳の奥に激しい光を宿していた高杉とは似ても似つかない。

こいつ、目の見えない兄貴のことだましているんじゃねえのか?


翌日、道場にしている納屋の前を通り掛かると、

「カメハメハ!」

妙な叫び声が聞こえた。思わず足を止めて中の様子を伺えば、件の銀髪の男が目の前に並んだ男達を前に変な格好で仁王立ちしていた。

「ほら!もっと腰を入れる!剣の道を究めてえんだろ? 両手きっちり合わせろよ。合わせたら腰の方にぐっと引け!カメハメハー!」

胡散臭すぎる・・・!

とっととその場を去ろうと道場に背を向けた時、

「おい、そこの兄ちゃん。」

呼び止める声がした。そのまま歩み去ろうとすると、

「無視かよ?おい。おめえ、俺のこと誰だと思ってんの? 頼まれてわざわざこんなド田舎まで来てやってる坂田銀時センセーなんですけど。それを無視するなんて失礼極まりないんじゃありませんかね。」

 その物言いにカチンと来て立ち止まる。

「師範? 坂田銀時? 名前から頭のてっぺんまでふざけやがって! てめえみたいな野郎に返事なんざするギリはねえ。」

坂田がくつりと笑った。

「そりゃ失礼。だけど、おめえの態度も客人に対するもんじゃねーな。え?十四郎君。」

思い切り睨みつけた。

「喧嘩売ってんのか?いくらでも買うぜ?」

「え?いやいや喧嘩なんて全然。つーか、おめえ、ここんちの、土方さんちの十四郎君だろ。師範が来たんだからもてなせよ、俺のこと。なにボケっと行っちゃおうとしてるわけ?気が利かねえこと山のごとしだな。」

「はあっ!?頭わいてんのかよ?てめえこそ師範なんだったら師範らしく剣術の指導しろや!」

「え?今日は初日だもん。この人達とは挨拶しただけ。挨拶大事だろうが、おめえまさか、さっきのカメハメハーを剣術だと思っちゃったわけじゃないよね?そんなこと考えてたら、いくら何でも頭弱すぎるぞ。」

ムカつきすぎて体が震えたが、腐ってても兄貴の客だ。ボコボコにしてもまずい。

「勝手に言ってろ!」

そのままずんずん歩き始めると、後ろから追いかけてくる足音がする。

「ちょっ!マジでどこ行く気だよ!」

「どこだろうが関係ねえだろうが!つうか、付いてくんな!」

「え〜、おめえの兄ちゃんは十四郎に村を案内してもらえっつってたけど。」

「生憎だったな。俺はそういうサービスはしてねえ。」

「だって、前の奴には色々サービスしてたんだろ?」

ぎょっとして男の顔を見た。男はへらっとした顔で俺を見て言った。

「よく連れだってあちこち行ってたって兄ちゃん言ってたぞ。」

「・・・まあな。」

高杉とのことが知られていたのかと一瞬肝が冷えた。高杉と特別な関係になっていたことは誰にもバレていないはずだ。と、

「あ、やっぱそういう関係だった?」

掛けられた言葉に体が動かなくなった。坂田の顔を見ないようにして唾を飲み込む。

「何のこと・・・、」

「え、あれだろ。前いた奴とイケナイ関係だったんだろ? おめえ、全身から色気ダダ漏れだもんね。剣術の世界、そっちの気のある奴結構いるしね〜。まあ、そいつの気持ちわかるわぁ。おめえ、そいつに手ぇ出されちゃったんだろ?」

「出されてねえよっ!!」




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