1.5W副長(第二部) 完結

□第25章 奪還 その質
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(警察庁長官などに興味はありません。そんなものは、直に泡沫に消えゆく運命で

すからね。)


佐々木は機嫌よさそうに笑む喜々を見あげる。


(この矮小な男に、私が下らない地位を手に入れて喜ぶと思われるのも疲れますけ

ど、まあ仕方ありません。バカで操りやすくて助かります。

おかげさまで、また私土方さんと会えそうですしね。)


佐々木は脇腹に手をやった。

土方に貫かれた傷は包帯の下でズキズキと大きく脈打っている。


(この前はちょっと土方さんを見くびりすぎました。まさかあんな破天荒な攻撃を

しかけてくるとは。さすが、山猿は私たちエリートと考えることが違います。だけ

ど、今回はそうは問屋が卸しませんよ。)






「喜々さん!」

と、いささか荒々しい足音がして、恰幅のいい老人が顔を見せた。

「上様。いかがされましたでしょうか?」

喜々が小さく佐々木にウィンクを寄越す。

そこには、つい先ほどまで二人の話題に上っていた先代将軍徳川定定が顔を赤くし

て立っていた。

「いかがされた、じゃないよ。これは一体何なんだね?私に何の相談もなく何で兵

を動かした!?」

喜々はわざとらしく大きなため息をついた。

「上様、本日は城内で例のない規模の処刑が執行されます。浪士達も今頃さぞかし

色めき立っていましょう。これは、上様の御身を護るための処置でございますよ。」

「私の身を護るためだと?」

定々が鼻先で嗤う。

「私の身に奴らは指一本触れることなどできない。奈落が付いているのだからね。

それは、卿も存じて居ろうが。卿が兵を動かしたのは、私からこの幕府の実権を奪

わんとしての行為なんじゃないのかね? そこに、私のところから寝返ったイヌも

いるようだし。」

定々が佐々木をちらと見て、憎々しげに舌打ちをする。

佐々木は心の中で小さく肩をすくめた。

定々の一派と喜々の一派は長らく勢力をしのぎ合ってきた。佐々木は定々の寵を得

んとして動いたこともあったが、今では誰もが一橋派と見なすほど喜々の近くにそ

の位置を占めている。定々の身からすれば許しがたい裏切りに思えるのだろう。



「滅相もございません。」

喜々がニッコリと笑って見せた。

「上様がご覧になっていて、私たちの指揮に不首尾があるように思されるようでし

たら、すぐにでも上様が御自ら指揮をお取りください。私たちはただ、意識を取り

戻されない将軍様とご高齢の上様の身を案じて馳せ参じただけのことでございます

から。」

面と向かって年寄扱いされて定々の額に青筋が浮かんだ。

だが、茂々が目を覚まさないまま死ぬようなことがあれば、次期将軍はこの男のも

のになるのだ。

「ふん、では、老人はとりあえず高みの見物といかせてもらいましょう。ただ、卿

が少しでもしくじりそうになったら、遠慮なくこの老いぼれがしゃしゃり出てきま

すのでな。まあ、せいぜい頑張ってみなさい。」

定々は憎々しげにそう言い捨てると、供のものに用意させ、天守の上段の間に腰を

据えた。



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