恋情の記憶(R18)

□恋情 その5
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夕方、仕事を終え、夕焼けに赤く色づく湾岸沿いの道をゆっくり歩いていると、いい

加減見慣れてきた銀髪の男が倉庫の壁にもたれて土方を見ていた。

銜えていたたばこの煙を胸の奥いっぱいに吸い込む。

じわと胸の中に広がる苦みが神経を鎮めた。

「朝から待ってたのか。ご苦労さんだな。」

皮肉を込めてくっと笑って見せる。

「いやあ、ここ歩いてくるんじゃねえかと思って待ってたけど、当たりだった。」

よかった、会えて。

と土方の嫌味を完全にスルーして、銀時がにっと笑った。

銀時の態度に土方は憮然としてぎりと煙草を噛む。

「何の仕事して来たんだよ?」

土方の様子など全く無視して、銀時が近づいて来た。

「いいだろ、なんでも!」

銀時がひょいと土方の手を掴んで掌を見る。

「あれ?何?草むしりでもしてたの?」

手が泥で汚れている。

「うるせえ!」

思い切り銀時に掴まれた手を引いた。

「仕事ってひょっとしてガテン系なわけ?愛人やっててガテン系って、それ相手の男、

甲斐性なさすぎなんじゃねえの?」

「何が言いたい。」

「え?いや、何が言いたいってわけじゃねえけどよ、まあ、銀さんがおめえのこと愛

人にするんなら、働かせたりしねえなっと思ってさ。完全に囲い込んでほかの男の目

に触れないようにしちまうね。俺、結構、束縛するタイプだから。」

「・・・・安心しろ。てめえの愛人になんぞ、ぜってえならねえ。」

「なんだよ・・・。冷てえの・・・。」

「たりめえだ!」

銀時を睨みつける瞳の中が揺れている。

銀時はため息をひとつついた。

昨日もそんな風に揺れる瞳で俺達を睨んでいたな。

近藤や沖田や過去に護っていた色んなもんにまで、そうやって必死で牙を剝いて、い

ったいおめえどうしたいのよ?

昔のおめえの瞳はぜってえそんな風に揺れたりしてなかったってのに。

今はそんなに何に怯えてんだ?

「・・・おめえさ、今、大切なもんて持ってんの?」

思わず言葉が零れた。

「何?」

「だからさ、おめえ、今、護りたい大切なもんあるわけ?」

近藤や沖田と離れて、今も自分よりも大切なもの持っているのか?

「・・・・ある。」

一瞬の沈黙の後、意外にもはっきりとそう土方は言った。

銀時の眉が上がる。

「それ・・・武田のこと?おめえさ、武田観念斉って奴にまじで惚れてんの?す

げえ好きって思ってるわけ?」

沖田や山崎から聞く武田観念斉の人となりは、とても土方が惚れるようなタイプでは

ないのだが。

「・・・・・別に、武田のことじゃねえよ。」

「え?それじゃ・・・。」

「武田の愛人やってんのは、あいつしか俺の性欲を満足させることができる奴がいね

えから。それだけだ。」

「え?・・・・・ええっ?性欲?!」

吃驚して叫ぶ銀時の脇をすり抜け、土方はマンションの中に姿を消していった。



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