1.5W副長(第一部) 完結

□第11章 変身
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「そろそろ、出るぞ。」

土方が言う。

今日はこれから捕り物がある。



ちょっと前、俺がオタクみてえな男に拳銃で撃たれかけた事件があった。

その後、撃った男の様子がおかしいと、土方が調査に入っていた。

俺を撃った男は、薬物を投与されており、痴漢、という言葉を聞いたときに発砲する

ように暗示をかけられていたという。

つまり、あの時、ハム子が俺のことを痴漢とまちがえていなかったら、撃たれていた

のは、ハム子だったということだ。

そういう薬物を投与されたオタクというのがこのところ何人も捕まえられており、全

員なんらかの暗示をかけられていた。

土方は、かつて自分が作り上げたオタクのネットワークを駆使して、わずか1か月ば

かりで事件のあらましを解明していた。

そして、今日、その事件を仕組んだ連中をとっ捕まえに行くというわけだ。



そいつらが、潜んでいる建物は、もともと何かの研究につかわれていた場所で、建物

自体小さいが、部屋数が多く、見通しが悪い造りになっているという。

内部には、相当数の薬物があることが確認されており、武器として少なくとも拳銃を

所持していることが分かっていた。

「見通しが悪いうえに、向こうからは発砲してくる可能性が高い。が、こっちは、何

の薬物があるかわかんねえところで重火器での応戦はできねえ。」

と土方は説明する。沖田のランチャーの出番はないっつうことだ。

そんなわけで、今回の捕り物の計画は、ライフルの扱いに優れた数人の隊士に援護さ

せて少人数で一気にふいをつくということになっている。

近藤も沖田もその他のほとんどの隊士も、建物の外部での配置だ。

援護を受けて中に突っ込むのは、土方と俺の二人だけ。

「大丈夫なのか? 危険なんじゃねえのか?」

と近藤は心配したが、

「相手の人数は大したことねえし、建物自体が小さくて、人数投入するのに向いてね

え。今回は、俺とあいつの二人で行ってくる。」

と土方は言った。



今日の作戦の最終的な確認をしていた土方と銀時のところに、何番隊かの隊長が慌て

た顔をしてやってきた。

「すみません・・・。」

「どうした?」

聞けば、隊士が一人、真選組をやめて出て行ったという。

名前を聞いて土方が眉を顰めた。

「なんだよ?隊士が一人くれえやめたくらいで、大したことじゃねえだろ?」

銀時が怪訝な顔をする。

「今日、ライフルで援護することになっていた隊士の一人だ。」

土方が説明した。

もともと、ライフルを扱える隊士の数が少ないのだ。

「そっか・・・。」

今回の作戦が危険だから、臆病風に吹かれたのだろうか。

そう思いながら、土方の顔を見た銀時は、はっと気が付いた。

「あ、さっきの、あいつ?」

さっき、土方に告白してた隊士?

土方はため息をついた。

そうなんだ。

土方に振られて、やめちまったんだ。真選組も、土方を守ることも。

「ま、いいじゃん。そういう奴ってさ、戦闘のあいだに、いきなり、怖くなったから

おうち帰ります、なんていうタイプじゃん?今のうちにいなくなってくれて、よかっ

たんじゃねえ?そんな奴があけた穴くらい、俺が余裕でカバーするって。」

にやっと笑って、土方を見る。

憂鬱そうな顔をしていた土方が、ふっと笑みを浮かべた。

「てめえみてえに能天気だと、毎日が幸せなんだろうなあ。羨ましいぜ。」

「おい、てめえが、落ち込んでんのかと思って、フォローしてんのに、何、さらりと

失礼なこと言っちゃってくれちゃってんですか、コノヤロー。」

銀時が唇を尖らせる。

「あ、あの、俺があいつのかわりに入りましょうか?」

隊士の脱退を告げに来た隊長が申し訳なさそうに申し出た。

「いや、いい。気にすんな。」

土方が首を振った。



今回は結構危険かもしれねえ。

銀時と二人で今回の作戦を立てているときに、土方がそう漏らした。

「じゃあ、俺が行く。」

それで、銀時がそう言った。

「一緒に行こうぜ。足手まといになる連中は、置いていっちまおう。」

と声をかけたら、土方はちらりと微笑を洩らしてから、

「そうだな、そうするか。」

と答えた。

下手したら、土方が一人で行っちまうかもしれねえと心配になったのだ。

土方は、オタク仲間たち(本人は認めたくないと思うが、れっきとした仲間なんじゃ

ねえかと俺は思う。)が性質の悪い犯罪に巻き込まれそうになっていることをかなり案

じていた。

早期の解決を図りたいと焦っているのを知っていた。

それで、間違っても一人で先走らないように、銀時が声をかけたのだ。

ライフルの援護が一人くらい減ったところで、どうってことない。

いつものように、二人で、攘夷浪士たち蹴散らして、帰ってくるだけだ。
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