その他学年

□感謝してます。
1ページ/2ページ



夜、消灯時間も近い頃
俺は風呂から上がり
自室に戻ろうとしていた。


「作兵衛。」


だが、それを、食満先輩に止められる。


『どうなされました、先輩。』


少し慌てている食満先輩に
驚きつつも、俺はそう尋ねた。


「凄く先輩としては言いにくいのだが
一人でしようとしていた
用具倉庫の点検をだな…。」


『一緒にやってほしいって
ことですよね。いいですよ。』


「さすが、作兵衛。
言わずもがな、だな。」


『まぁ…。
とりあえず、俺
急いで着替えて来ます。』



笑顔になる先輩の頬には
擦り傷があって、手は真っ黒。


きっと、潮江先輩と喧嘩でも
していたんだろう。


自室に入り、着替えを済ませて
同室の左門と三之助に一言言って
部屋を出た。


『お待たせしました。』


「あぁ。
じゃあ、行くか。」


いつも通り、二人で用具倉庫に向かう。


しんべヱや喜三太、平太を呼ばないのは
もう寝ている時間だからだろう。

起こしてまで手伝ってもらおうとは
思えない食満先輩らしい。





「悪いな、作兵衛。」



用具の点検中、先輩はポツリと言った。


シンとしている中に放たれた言葉も
いつも通りだ。


『いえ。
俺だって用具委員ですし
当然のことです。』


「そんなこと言ったって
風呂から出る時間が消灯時間間際だったろ。
ギリギリまで自主練でもしていたはずだ。
疲れているだろう?」


『まぁ、疲れてないと言えば
嘘になりますけど、食満先輩、
潮江先輩と戦って時間経ち過ぎちゃって
一人で点検するには厳しい時間に
なってしまったんですよね?
手伝いくらい、しますよ。』


そう言えば、先輩は苦笑しながら
頭をポリポリと掻いた。


「お見通しってやつか。」


『お見通しって言うより
食満先輩、汚れてるし怪我してるし
お風呂にも入っていない様子です。
見てわかりますよ。』



先輩は、ははっと短く笑う。




『はい、俺の担当分です。』


チェック用紙を先輩に渡せば
先輩はそれに、目を通し深く頷いた。



「ありがとな。」



『…いえ。
あ、あの、先輩の分の方が
多いようですし手伝います。』



「ん、助かる。
なら、手裏剣の数を数えてくれ。
小松田さんに昼間手裏剣を
ばらまかれたらしいんだが吉野先生は
時間がなかったらしく、数を数えないで
収納したらしい。しっかり、頼むぞ。」


『はい。』


手裏剣の置いてある棚の前に
足を運ばせ、手裏剣の入っている
木箱を探した。



だが、いつも置いてある場所にない。


棚の下から上まで見れば
一番上の段に木箱があるようだ。


爪先立ちでもすれば届くだろう。


体全体を上に伸ばすと自然と喉から
声が出た。


だが、いくら伸ばしたって
木箱には手が届かない。


俺は両足で地を蹴った。


指に触れる木箱の感覚。


やっと、届いた。


そう思った矢先、時間が止まった
気がした。




ガシャン



一瞬、息が止まって
風を感じる。


何かが崩れるような音ではないが
鉄がぶつかり合う鋭い音が鼓膜に届く。


転ぶ。


そう思ったが、俺は柔らかいけど
少しかたいものに
包まれている感覚だった。



「大丈夫か、作兵衛。」



知らぬ間に目をギュッと
つむっていたらしい。

それを開けて見たら顔の目の前には棚。


視線をゆっくり上に向ければ――






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ