その他学年

□お忍び忍者いけいけどんどん
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夜、消灯時間が過ぎた頃。


やっと寝床につこうとする
滝夜叉丸の姿があった。


『喜八郎はまた穴掘りか…。』


いつも部屋の隅においてある
踏子ちゃんがないことを見れば
喜八郎は穴掘りしに行っているのだろうと
滝夜叉丸は解釈をした。


この時間まで、いけどんマラソンに
付き合わされていた滝夜叉丸の体力は
もう微塵ものこっていない。


疲れた体を癒そうと
布団に包まり、仰向けになる。


だが、滝夜叉丸の体に癒しなどこないことが
わかったのは、正にその瞬間である。



『…!?』



言葉にならない声。


金魚のように開いた口。


今の状況を理解した時
滝夜叉丸は自然と悲鳴が
出そうになった。



それを止めたのは、言うまでもなく
先程まで滝夜叉丸を連れ回した
七松小平太である。


『――ん゙ー!んんー!!』


口を手で押さえられている
滝夜叉丸は、必死にもがいた。


「静かにしろ。
こんな時間に騒ぐつもりか?」


普段、話す声とは比べものに
ならないくらいに静かで落ち着いた声が
滝夜叉丸の耳に響く。


その言葉のせいか、はたまた
耳にかかる吐息に恥ずかしさを
感じ自然と静かになったのか
滝夜叉丸は静かになった。


「…このくらいで驚くなんて
滝夜叉丸らしくないぞ?」


滝夜叉丸の口を押さえていた手を
外して、小平太は言う。


『自分の部屋の天井にまさか先輩が
張り付いてるなんて普通
思わないですよ!!!』


「忍者の卵なんだから、
天井に張り付くくらいあるだろう。
このくらいで驚くな。」


滝夜叉丸の焦っている姿に
疑問を抱くかのように
小平太は首を傾げた。


『こんくらいじゃないですよ…。
それより、何でこんなところに
いるんですか?』


「先程、風呂上がりに
暑かったら外に出ていたら
喜八郎がまだ穴掘りしてたから
滝夜叉丸が一人だと思って
会いに来たに決まってるだろ。」



当然の如く言う小平太に
最初から呆れていたが
もっと呆れた滝夜叉丸の
深いため息が降り注ぐ。


『……先輩、疲れてないんですか?』


「ん。
何でだ?
疲れるようなことしたか?」


七松小平太の体力は底無しだった。

滝夜叉丸は、改めてそれを
思いしらされたようだった。


『もう、私はさっきのマラソンで
疲れたので寝ますよ?』


このまま話していても
余計に疲れると判断した滝夜叉丸は
そう言って、布団を被ろうとする。


だが、先程と同じように
滝夜叉丸の行動は
小平太によって止められた。


布団を握る滝夜叉丸の右手に
小平太の一回り大きな右手で被さる。


「私が来たの、嬉しくないのか?」



『そんな訳ないですけど…。』



珍しく真剣な顔つきの小平太に
戸惑いを隠せなかった。


滝夜叉丸と小平太の間柄は
もう何度か枕も交わし親密な関係。


互いが互いを好いている。


自分の好きな人と
会えるのだから嬉しいだろう。


だが、滝夜叉丸が素直に
小平太を歓迎できないことは
理由があってのことだった。


「じゃあ、何故喜ばないのだ。」


拗ねた子供のように
膨れっ面をする小平太に
滝夜叉丸は眉を下げた。


『…先輩が、私の部屋に来て
何もしないで帰るとは
思わないからですよ。』


素直に話した内容に小平太は
ニヤリと笑う。



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