六年生

□マンネリ放課後
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彼等にとって放課後は
当たり前の連続。


普通な時間が
普通に過ぎる


心地のよい時間。


そんな時間が今日もやってきた。



「よっしゃぁああ!!
終わったぁ!!」


小平太は叫ぶと同時にリュックを背負って
長次を横目で見ながら
いつものように教室を出た。


廊下には既に
昔っからの腐れ縁だと
彼等は言う、仲間がいる。


「どこ行く何する!?」


またもや小平太が叫べば
留三郎が口を開いた。


「伊作が、カラオケ行きたいらしい。」


その言葉に、みんなは
いいんじゃない?と、肯定し
自然と校舎を出たのだった。


学校から1番近い
いつものカラオケ店に
いつものメンバーで入る。



「よーし、1曲目入れるぞ!!」


普段通りに小平太が曲を入れ
その間に、歌う順番を決め
順番ずつ曲を入れるのだった。


カラオケに行きたいと
言い出しっぺの伊作は
不運の力を毎回ふんだんに発揮し
じゃんけんに負け、順番はいつも
最後だった。



「はい、文ちゃん。」


「文ちゃんじゃねぇよ。」


小平太の次は文次郎で
小平太から呼ばれたあだ名に
ぶつぶつと文句を零しながら
マイクを受け取った。


そして
文次郎が歌い終われば
次は仙蔵の番なのだが
仙蔵は文次郎からのマイクは
受け取らず、まだ誰も
使っていない消毒済みのマイクを
手に取った。


「俺の使い終わったヤツは嫌か?」


「汚いからな。」


それとなく聞いた文次郎の言葉を
ばっさりと切るように
仙蔵は答えた。


文次郎は拳を握ったが
必死に抑える。
仙蔵に喧嘩を吹っかければ
自分が痛い目にあう、という
自らの経験を得ての抑制だった。


仙蔵が美しく歌いあげたあとは
長次なのだが、長次はいつもの通り
聴くので充分だという理由から
曲を入れていなかった。


長次を飛ばし、留三郎だったが
仙蔵のマイクは既に
歌う気満々の小平太に取られ
仕方なく文次郎からマイクを受け取る。


「チッ。」


軽く舌打ちをすれば
文次郎は怒りを現にしながら
殴りかかろうとしていた。



「バカ三郎てめぇ、何か
文句あっ……ぐぉっのッ!!!」


身を乗り出した文次郎の股間に
机の角が強打された。


「アッハハハハハ!!!
あぁー、腹いてぇな。
ざまぁみやがれ、バカ文次!!」


曲の前奏中、ずっと笑い
留三郎のニヤニヤが完全に
なくなるまでには時間がかかった。


そして
うずくまる文次郎を慰めていた
伊作の番がやっとまわってきた。


「そういえば、伊作はどうして
カラオケに来たかったんだ?
ストレスでもたまっていたのか?」


仙蔵が聞けば伊作は
照れた顔で言う。


「僕、何でか歌う前とか
歌ってると邪魔が入って
何事もなく歌いきることが
できないんだよね。
だから、今日は何事もなく歌いきる挑戦
みたいな感じでさ。」


「…ほぅ。
なら、できるといいな。」


フッと仙蔵が笑い
伊作が頷く。


そして、曲は普通に始まった。



AサビもBサビも
何事もなく、終わり
その場にいる、みんなが伊作を
応援する形で聴いていた。


歌っている…いや、挑戦者の伊作自身も
今回ならイケる。
といった自信に満ち溢れ
不安だった表情も今では真逆だ。


「よし、イケるぞ伊作!!」


留三郎がガッツポーズをして見せれば
伊作は涙目になった。


そこまで喜ぶか?と疑問になるかもしれないが
これは彼にとっては、物凄い快挙であり
これを成功させれば、もはや
不運ではなくなるのではないかという
くらいのことなのだ。


やっとの思いで大サビに入る瞬間
彼は息を吸い込み
みんなは固唾を飲んだ。


吸い込んだ息を吐こうと
マイクを強く握った瞬間。


「失礼しまーす。
メガ盛りポテトです。」


お約束だった。


頼んでもいないポテトが
いきなり目の前に現れたら
誰だって、一瞬戸惑い止まる。


伊作だって、その一人。


「あの、頼んでませんよ。」


文次郎が言うと店員は
部屋番号を確認して
深々と頭を下げ謝罪した。


そして、その頃にはもう
大サビは始まっていた。


謝罪の声と、大丈夫ですよ。

と、言う声しか聞こえない部屋に
歌声は響いていなかった。



そして、これから毎回
伊作が歌う度に邪魔が入るのだった。


今世紀最大の落ち込みを見せる伊作に
何とか元気を出してもらいたいと
カラオケを出た彼らは考えた。


「とりあえず、私
プリクラ撮ってみたい!!」


小平太が手を挙げれば
文次郎が首を傾げた。


「プリクラって何だ?」


「知らないのか!?
まぁ、とりあえず行けばわかる!!
ゲーセン行こう!!!」


挙げていた手を拳にして
進行方向に向けて歩きはじめた。



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