六年生

□これから
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「今日は、煎じないのか?」


『まぁね。
煎じて欲しかった?』


「そんな訳ないだろ。
臭くてたまらん。」



夜、こんなにも暇な日は久しぶりだ。

薬を煎じない日はバイトをして
バイトをしてないない日は薬を煎じている
僕が、この時間、普通に布団に
入っているのが珍しいのだろう。


留三郎が不思議がるのも無理はない。


「珍しいな、お前が暇してるなんて。」


『たまには、休まなきゃね。』


「確かにお前は、ただでさえ不運のせいで
大変だというのに、薬を
煎じなきゃいけないだの
バイトしなきゃだので
休んでいないもんな。」


『あっはは。
確かにね。
不運にも困ったもんだよ。』


「見てるこっちも、焦るからな。」


仕切り越しなのに
お互いが笑顔なのがよくわかる。


部屋を真っ二つにするために
置いた仕切りのせいで
留三郎の笑顔が見えないのが
いたたまれない。


「せっかくの暇なのに
早く寝なくていいのか?」


『んー、まぁ…寝たいけど
寝たくない…、みたいな?』


「何だよ、それ。」


そう言って、軽く笑う留三郎。



『留三郎は、僕が何で寝たいのに
寝ないかわかるかい?』


そう聞いてみれば
留三郎は少し唸った。
そして、自分を鼻で笑うように言う。


「そうであってほしいなって
のなら、ある。」


多分、留三郎は
正解を言っている。


ただ、素直じゃない人だから
自分からじゃ言えないんだと思う。


でも、本心ってやつは
自然と行動に現れるわけで
留三郎は、僕にわかりやすく
本音を教えてくれる。



『そうであってほしいことって、
どんなこと?』


「言わねーよ。」


それ、言っているようなもんだよ。


だなんて言ったら
殴られそうだから言わない。


けど、ほんと。


わかりやすいや。


『何で寝ないか知りたいかい?』


「そりぁ、まぁ…知りたい。」



自分の理想とする答えが
返ってくるのか、こないのか
きっと、留三郎は複雑なんだろうな。


僕が答えを言ったら
喜んでくれるのだろうか。



『留三郎と話していたいから。』



留三郎の表情が見たくて
僕は立ち上がり、仕切の向こうを見た。



「なっ…何だよ。」


目が合うと、耳まで赤くした留三郎は
やっぱり、とてもわかりやすい。



『留三郎の、だったらいいな。
って答えだったかい?』



「う、うるせぇー。」



『何を言う。
僕はうるさくない。
静かじゃないか。』


「そういう意味じゃねぇよ。
てか、揚げ足とるな!!」


『あっはは。
まぁまぁ、そう怒るなよ。』



今のこの時間が、とても楽しくて
自然と笑顔がこぼれて来る。


留三郎はまだまだ素直になりそうにない。

だから、素直に留三郎が
僕を求めてくるっていうのは
ずっと先だと思う。


『ねぇ、一緒の布団で寝ようよ。』


「……んなっ!?」


『ダメかい?』


「だ、ダメじゃねぇよ。
ただ、俺の布団だからな。
お前の布団は臭くて嫌だ。」


『うん。
そのつもりだよ。』


そう言って、僕を受け入れてくれる
留三郎の布団に入り込む。


体を寄せ合わせれば
留三郎の心臓の音がする。


それが、心地好くて
僕も、一応愛されているんだなって
思い知らされる。


『ねぇ、これからもずっと
こうやって求めてもいいかな?』


「……あ、あぁ。」


『じゃあ、これからも
同衾してくれるんだね?』


「どどど、同衾!?
そ、それだとまた違う意味も
混じってくるじゃねぇか!!」


『…僕は、これから先
そんなことがあってもいいと思うけどね。』


「う、うるせぇー!!!」


顔を見せないように必死になる君を
今は襲おうとは思えない。


だから、これから少しずつ
留三郎に触れて触れられていこう。





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