薄桜鬼【短編】
□月夜の下で。
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「月を…見に行かないか?」
夕餉も済み、自室にいると、珍しく斎藤さんが声をかけてくれた。
密かに彼を慕っていた私。
勿論、断る理由なんてない。
二人で並んで歩みを進める。
見上げた月は春の月らしく、少し霞みがかっていて…
「いい月ですね」
「ああ」
言葉は少ないけれど、二人の間には心なしか温かい空気が流れている気がして、
私の胸は少しずつ高鳴っていく。
彼が歩みを止めて月を見上げる。
それに倣って隣で月を見上げる私。
ふと気がつくと彼が私を見下ろしていた。
前髪の間から覗くその瞳は、
凛としつつも今宵の月と同じように優しい光を携えていて…。
私はその瞳に心奪われた。
「寒くないか」
優しい言葉が舞い降りた。
「…はい、大丈夫です」
互いに口元に笑みを浮かべていた。
すっと彼に手を取られ、歩みを進める。
自分の顔が一変に紅潮するのがわかった。
でも…きっと。
顔を合わせずに前を向いて歩く彼の顔はもっと赤いと思う。
今宵の月に心から感謝した。
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