□ミニークロ〜Minimum Clover〜
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―――部屋の窓から
空を見上げる


それが僕の朝の始まり
だった。



窓の近くには植木鉢が
1つ。
何の植物かは分からない。



というのも、この鉢は
昔出会った老人に貰った
ものである故にで。


その時は確か、荷物を
肩代わりしたお礼にって
貰ったんだっけ…

あの時、何の苗かぐらい
聞けばよかったな…





「あっ、ヤバイ…
そろそろ出る時間だな」


僕、千歳松晃(チトセマツアキ)は
今日から高校生。

新生活のスタートを
たった今、踏み出した。






…入学式はすぐに終わり
新しいクラスでのHR。

特に面白みの無い僕は
少々控え目に自己紹介を
しようとしたんだけど…



緊張しちゃって噛み噛み
の自己紹介。
自分の名前さえマトモに
言えなかったよ…



それが幸いして(?)か、
言い寄ってくる同級生が
何人かいた。
新しい友達もできた。

「俺、佐本多紀(サモトタキ)
ってんだ!宜しく!」

「僕は千歳松晃…
宜しくね。」



まず、元気の良い多紀が
高校初めての友達に
なった。

これから始まる生活に
大きな躍動感を与えた。


家に帰り、窓の近くに
ある植木鉢に水をやる。


それが中学から、
学校帰りの後にする
習慣でもあった。


「お前は一体何の鉢
なんだい?…なんてね」

勿論返事は無い。
だけど少しだけ出てる
芽がちょっと揺らぎ、
返事をしてくれているか
のように感じた。







「ご飯だぞー!」


お父さんの声が1階から
聞こえてくる。



うちはいわゆる核家族。
父、母、妹の深那(ミナ)、
そして僕の4人家族だ。


深那》「松晃遅いよー」

松晃》「ゴメンゴメン、
水やってた」

母》「水って…あぁ」

父》「本当お前、あの
植木鉢大事にしてるな」

松晃》「まぁね」





あの植木鉢を老人から
貰ったのは今から大体
7年前。

それからずっと世話を
しているんだけど…
松晃》「何で未だに芽
だけなんだろう…」




そう、7年も経てば
咲く・枯れるの輪廻を
繰り返していても
おかしくないはず。


なのにこの芽は一向に
咲きに向かう予兆さえ
見せてくれない。



深那》「一体何の鉢
なんだろうね」

母》「トリカブトよ、
きっと」

松晃》「お母さん…
何で猛毒植物なんて
夢の無い話するの…」







本当…
何の植木鉢なんだろう?














翌日。
ちょっと早めに鳴らした
目覚まし時計が部屋中に
響き渡る。



松晃》「さぁて、
水やりしなきゃな」


そう呟きながら
窓の近くにある植木鉢に
水をあげようとする。
何て事ない、
いつもの日課。




松晃》「……?」



僕は目を擦った。
小さい芽を覗かせている
はずの植木鉢を見て。



何度も、何度も。
しかし、"それ"は確かに
"そこ"にいた。


植木鉢から覗かせる、
その姿は。











松晃》「小っちゃい…
人形?」





僕は夢を見てるかの
ような錯覚に囚われた。

植木鉢の上に、いる。
確かに小さな人形が。





でもそれは間違いという
事がすぐに分かった。





「動いて」いるのだ。




それに「喋って」いる。





これは人形ではない。
れっきとした一生命体。


その事実は、何より
信じがたいものだった。






「んー、よいしょー」




必死に日に当たろうと
背を伸ばす"それ"。


慌てて植木鉢が傾いて
落っこちそうになる。
…どうやら埋まっている
ようだ。





僕はとりあえず"それ"と
話してみる事にした。





松晃》「あ…あの〜、」


「ん、なーに?」


松晃》「君は…一体?」


「ぼく?ぼくは"シア"!」


松晃》「"シア"…?」








こうして僕と
"シア"との出会いが、
これからの新生活に
異質な風を吹き込んだ。
 

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