SHORT DREAMS

□Just Be Friends...
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「ありがとうございました」



遊園地のお姉さんから預かった一本の赤い風船。



あたしはギュッと握りながら彼女から離れる。



人ごみの中...一人で...



正直此処には来たくなかった。



嬉しい思い出しか無い場所だから。



今の苦しくて、苦い想いをますますほろ苦くする、遊園地。











頭の中には愛おしい記憶が回想されている。



告白、初デート、初キス...



終わり無い記憶のチェーン。



けどそれを否定する様に今度は悲しい記憶と共に痛い感情が流される。



喧嘩、浮気、ギクシャク関係。



疑い、怒り、すれ違い、勘違い、後悔。



けど、ホントは、まだ、好きなのに、



バカバカしい勘違いと喧嘩の所為で今はこんなに苦しくて、悲しい。



『仁王...』



もうちゃんと「雅治」とも呼べなくなってしまった関係。



一緒に会話する事も出来なくなってしまった関係。



恋人じゃなくなってしまった関係。



すべてが夢だったら良いのに。



起きて



夢が覚めたという安心感を感じ



いつも通りの関係に戻れれば...



ホント



いつからこうなっちゃたんだろうね、あたし達?










観覧車の前のベンチにあたしは腰を下ろす。



風船は、まだ握ったまま。



そう、ここであたしは









あなたへの気持ちを手放します。



風船は相変わらずフワフワと浮かんでいる。



手を離したらすぐに飛んで行ってしまうだろう。



けど、




『どうしても...出来ない...』



あたしの手は少しも糸を離さない。



まるで、彼への気持ちにまだ縋り付いている様に。



手放す寸前に、こんなことになるなんて、




『...バカ...みたい...』



あたしの頬を伝う、誰かの涙。



これは、決してあたしのじゃない。



あたしのだなんて、認めるもんか...



『...好き...好き好き好き...雅治...大好きなのに...』



溢れる様に出て来る本心。久しぶりに呼ぶ、彼の名前。



あぁ、あたしはこんなにも彼に溺れている。



でも、



後悔は、



したくない。



あなたを、



縛り付けて、



苦しめたくない











だから











今、











あなたを










解放します。










精一杯の力で糸を掴んでいた掌を握って、























ゆるりと離した。

























あたしの想いを乗せた赤い風船。



ゆっくりゆっくり、空へと舞い上がる。



もう、取り戻せない。



どんなに飛んでも届かない。



未だに、目の前から消えない風船。



あたしの今の感情を映し出す赤い風船。



けど、これで良い。



あたしは、彼と過ごした時間は永遠に消えないと分かっている。



これは事実だもん。



でも、これで悲しむのもお終い。



最終的に、あたしたちの重なった時間をあたしは後悔していない。



重なった時間のおかげで、あたしは本当の愛を受ける事が出来て、捧げる事も出来た。



これは、彼だったからこそ、出来たと思う。



終わり方は苦しく、悲しかったけど



それはしょうがない事、所詮人間だもん、傷つく理由は終わらない程ある。



けど、一つだけ、



一つだけ、最後にお願いがあるの、



雅治。



「...加奈...」



ハァハァ荒い息を切らせながらあたしの方へ走って来る彼。



手には、先程メール読んだのであろう、携帯が。



『Let's just be friends』



彼女はダメだから、



これからは友達のまま、また向き合いたい。









 

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