▲長編▽

□手を差し伸べて
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部屋の中で叩かれながら泣いている子供がいる。
やめて、やめてください。同じ言葉を繰り返し、繰り返し叫んでいる。
それが怒りを煽ったのか更に激しく殴る、蹴られる。
子供はもう何も言えないのか、言いたくないのか、最後に擦れた声で呟く、お母さん と。




嗚呼、これは幼い頃の自分だった。
もう何も見たくない、思い出したくない。
けれど、この夢を見てしまう。
忘れるな、と言うように。
私は幸せになってはいけない。
生きていることすら許せない

でも、私には守ってあげなければいけない人がいる。
…クダリ。
愛しいクダリ、無邪気に笑う彼が私みたいな薄汚れ醜いモノの傍にいる というだけで自分は生きる価値さえない壊れた人形のように見える。

クダリ、クダリ。あぁ、私のクダリ。

私には貴方さえ居れば何もいらない。
穢れた身体。醜い感情。
こんな自分いらなくなる。
助けて、助けて、クダリぃ

誰かが、私に覆いかぶさっている。
恐怖に声が出ない。
身体中を汚らしい手が這いずり回る。
汚いきたないキタナイ
下半身に鋭い痛みが走る。嫌だ嫌だイヤダいやだ

クダリくだりクダリ!
助けて!!

「止めてよ、その汚れた手で僕まで汚す気?」

違う、ちがぃますクダリ。私を一人にしないでください。

「もう、兄さんとは居られないね」
嫌だ、嫌です
やめて行かないで
クダリ、クダリぃ






「…さん、兄さん!」

「ぅ、…クダリ?」

「大丈夫?うなされてた」

「…怖い、夢を見ました」

「大丈夫、僕が兄さんを守ってあげるから」

守ってあげるのは私の役目なのに、クダリの手を煩わせるなんて…
やっぱり駄目な兄ですね。
「…兄さん。また一人で悩んでる。僕、心配」

「クダリに心配かけるなんて駄目な兄ですね…」

「そんな事ない!」

「……クダリ?」

「兄さん勘違いしてる、僕は兄さんが苦しむのは嫌だけど、普段感情を出さない兄さんが、僕の前ではちゃんと笑ってくれる、泣いてくれる、危なっかしいところを見せてくれる。それは僕にとってとても幸せなこと。」

そう言って優しく頭を撫でてくれる。
それだけで嫌なことなんて忘れられる。
嗚呼クダリ、愛してます、一人の男として、好きなんです
優しい弟に抱く醜い感情。これを伝えればきっと嫌われて、もう顔もあわせてくれない、声を聞かせてくれない。
そんなの耐えられない、
だからせめて、優しくて頼りない兄として貴方の傍にいたい。
私は貴方が居なければ生きていけない。
愛してますクダリ。





ノボリがまた、夢を見た。子供の頃のお母さんと、あの事件、
きっとあの夢を見続ければノボリは壊れてしまう。

この夢を見たあとは兄さんと呼ばないとノボリは僕だとわかってくれない。それがすごく悲しい。まるで僕達は双子の兄弟でしかないと語っているようで。
それと同時に、ノボリが心を許しているのは双子の僕だけだともいってるようで少し、ほんの少しだけど嬉しい。

ノボリが僕だけを頼ってくれる、だから僕がノボリを守る僕の世界からノボリが消えてしまうなんて有り得ない、そんなの許さない。


ねぇノボリ、愛してる。
今は気付かなくていい、ノボリが僕なしでは生きていけなくなればいい。

だから、君の隣で聞こえない愛をささやく、二度と離れないように、深く、深く絡みつく。



愛してる。
 

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