神様の箱舟

□二章[勝海大と二番目イヴ]
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「…何だったでしょうか?」

「……はぁ?」

予想外の彼女の疑問系の答えに、俺は間抜けな声を上げた。

「いや、俺に聞かれても…」

「え。あぁ、そうですよね。その………忘れちゃったみたいです。」

「…はい?」

え、忘れたって…名前を!?本名を!?名前なんてそう簡単に忘れられるものか?
俺が訳が分からず混乱していると、イヴがそれに気付いて、一つの仮定を話してくれた。

「多分、エデンに長く居すぎたものですから…本当の名前なんて呼ばれる事も、無かったですし。」

「…だから忘れてしまったと?」

「はい。」


そう言えば、イヴはこの世界に八年くらい居るんだったっけ…。俺はその事を思いだし納得する。そんな長い間名前も呼ばれてないのなら、忘れてしまうのも無理はないかもしれない。


「でも忘れて…辛くなかったのか?」

名前なんて大事なものだし…忘れてしまってどう思ったのか、俺は気になって質問してみた。ちょっと重たい空気にしてしまうか…と心配したが、彼女の答えはケロリとしたものだった。


「辛い?いいえ全く。特になんとも思いませんでしたよ?」

「あ、そ、そうなんだ?」

「はい。それに私、イヴって名前が気に入ってるんです。だから前の名前など気にしません。」

「は、はあ…。」


イヴは平然と笑っていた。そう言えば最初にあった時、彼女は本名ではない‘イヴ’の名前をすぐ口に出していた。本名などには執着していなく、イヴと言う名を気に入ってるのは本当なんだろう。


「だから今のまま、イヴと呼んでください。」

「あ、ああ…。」






**回想終了**


と言うことで、いまだに俺は彼女をイヴと呼んでいる訳なのだが…


「で、忘れたって言ってんだけど…やっぱりお前、彼女を洗脳してんじゃねーの?」

何故そうなるんだっ!?(οдО;)我がそんなくだらないことをするわけなかろう!!』

「そうか…?」


この誘拐犯(カミサマ)が、彼女を洗脳している可能性もあるのでは…と考えて、問い詰めてみた。が、やっぱり自称神様と名乗る変人なだけあって、認める気は無いようだ。まあ、嘘をついてはいないのかもしれないが、やっぱりコイツは疑わしい。



『イヴは八年以上もエデンに居るのだ。忘れても仕方ないと思うがね(´-ω-`)?』

「いや、そうなんだけど…」

『それに彼女は世界を…』
カミサマが何かを書き込もうとしたとき…

「ひろさーん。ごはん出来ましたよー?」

部屋の向こう…多分一階から、イヴの声が聞こえてきた。俺はそれに気付いて、急いで返事をする。

「あっ、もうちょっと待っててくれ!!カミサマ、この話はまた後で!」

俺はそれだけ言うと、クローゼットからシャツとズボンを取りだして、脱衣場へと向かった。部屋には隠しカメラがあるかもしれないし(汗)さっきカミサマ覗いてたっぽいし…


バタンッ

『…やれやれ。隠しカメラも無いし。着替えなんて覗くワケが無いのに…。ま、良いか。』

『ひろに、イヴの真実を知るにはまだ早いだろうしな。』


ひろが部屋から出ていった後、そんな書き込みがひろの携帯画面に映し出され、誰にも見られることはなく、数秒後にその文字はすぐに消えた。





顔を洗い、制服に着替えた後、俺は急いでイヴが待つであろう居間にやって来た。

「あ、着替えましたね。朝食はテーブルにありますよ。」

「ああ、サンキュ。洗い物…手伝おうか?」

「いえ、大丈夫ですよ。ひろは座っていてください。」


朝食を作るのに使ったであろう調理器具を洗っているイヴにそう言われて、俺はテーブルに行って席についた。
食卓にはトーストにウインナーに……オムレツだろうか?卵の中に混ざって、トマトのキレイな赤が映えている。とてもオシャレな朝食が並べられていた。
俺の母さんの朝食とは全く違うタイプだ。
それに、イヴによく似合ってる料理だとも感じた。まあ、料理に似合うも似合わないもないだろうが(汗)

俺はチラリと彼女をみやる。イヴは、昨日のワンピース姿とは違い、Tシャツにショートパンツとカジュアルな服装だ。そこにシンプルなエプロンを纏って、長い髪も後ろでしばっている。
その姿で洗い物をしてるイヴはまるでにi………



いかんいかんいかんっ!!
俺達はまだ夫婦とは決まってないし!イヴがただ朝ごはん作ってくれただけだし!
べ、別にドラマの新婚みたいなベタな展開を…………じゃなくてっ!!

俺は脳内によぎった不毛な妄想を振り払うように、頭を思いっきり左右に振った。


「ど、どうしました!?もしかして嫌いな物がありましたか…?」

それをイヴはどうやら見ていたようで、朝食の中に嫌いな食べ物があるのかと勘違いしていた。
俺は見られていたことに恥ずかしさが込み上げたが、とりあえず彼女に悟られぬようポーカーフェイスを作って見せる。

「いや、大丈夫だよ。美味しそうな朝食だなーて、思っただけさ…っ。は、ははははー…。」


……なんでだろう。絶対、上手く表情をつくれなかったと思う(汗)


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