短編集

□水無月の恋事情
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ねぇ?コレってどういう意味?

ねぇ?アレっていつの時代からあるの?

ねぇ?ソレって一体どうやったの?


−知ってるよ。こうなんだよ。―


へぇー!物知りなんだね。

―まあね。たくさん本を読んでるせいかな?―


すごい。私も本を読んだら物知りになれるかな?

―さぁ、どうだろうね。―

―でも、知りたいことがあったら、いつだって教えてあげるよ。―








***


6月。
梅雨真っ只中で、外は薄暗い雨模様である。
そんな中、外の色とは相反するようにとある高校の教室の一部で色めき立っていた。


「わぁー、そのピアス可愛い!」

「えへへ、彼氏からもらったの。」

「ラブラブ〜♪羨ましいぞー!」

「ノロケんなよ、この野郎!」


どうやら1人の女子のノロケ話が、恋バナに敏感な女子高生を盛り上げているようだった。

「そう言えば、6月ってジューンブライドだよね。」

「ああ、結婚式ラッシュの時期だね。」

「私も結婚式は6月がいいな〜。幸せになれるんでしょ?」


女子高生には少し気が早いような話かもしれないが、今度は6月の定番、ジューンブライドネタに会話が弾む。その中、先ほど話の的にされていた彼氏持ちの女子生徒が、考え込むように右手を顎に乗せながらふと呟く。


「そう言えば、なんで6月なんだろ?」

「え?」

偶然に聞こえた相手の女子が耳を傾ける仕草をして聞き返す。

「なんで6月に結婚したら、幸せになれるって話があるんだろ…?」

「そう言えば……なんでだろうね?」

「6月って梅雨でじめじめしてるのにねぇ?」

「バレンタインのチョコみたいに、お店側の宣伝とか?」

「それだったら、別に6月じゃなくでもよくない?」


色々な意見や疑問が、彼女達の空中を飛び交う。その後、疑問の答えを考える為に彼女達の間でしばらく沈黙が続くと、1人の女子が思い付いたようにそれを破った。


「そうだ。あの子なら知ってるかも!」

「あの子?」

「ほら、3組の。」

「ああ、本ばっかり読んでる子。」

集まっていた皆が、納得するように互いに顔を見合わせて頷く。


「あの子って雑学とかも詳しくて物知りだから、もしかしたら知ってるかもしれない!」

そう言うと、そのグループの何人かの女子がその場から離れて、‘あの子’がいる3組へと向かった。


3組、教室。

その教室では生徒の大半が、あちらこちらでグループになって喋っているのに、ある少女だけは、たった1人、己の席に座って文庫本を読んでいた。休み時間だというのに、誰かとコミュニケーションを取ろうと思う気は、彼女には全く無いらしい。
しかし、少女はクラスで完全に孤立してるわけではないし、いじめられているわけでも決してない。
すると、彼女の元にクラスメイトの二人が寄ってくる。


「ねぇ、春田さん。」

「…はい?」

呼び掛けられた少女は文庫本を閉じ、聞こえた声の方へ顔を向けた。


「この…‘忘年の交わり’って、どんな意味だっけ?」

「ああ、たしか年齢の違いとかを気にしない、親しい付き合いのことだよ。」

「あっ、なるほど。ありがとう!」

「ホントに春田さんって物知りなんだね。」

「そんなことないよ。偶然知ってただけ。」

少女は少しはにかんでそう言うと、生徒は「ありがとう。」と過剰とも言えるほどお礼を言って、その場を離れていった。

すると入れ替わるように、次は二人の女子生徒がやって来た。少女にとっては初めて見る顔だ。


「春田香奈さんって、貴女?」

「は、はい。」

「教えてほしいことがあるのー。」


女子生徒の言葉を聞いてまたかと思い、少女は短く息を吐いた。

「あのね、ジューンブライドってあるじゃん?あれって、なんで6月に結婚すると幸せになれる〜なんて、言われてるか……春田さん知ってる?」

「……。」

女子生徒の質問に、少女は顔をしかめる。数秒の沈黙が続き、そして申し訳なさそうな顔を彼女達に向けた。

「ごめん。…私も知らないや。」

「あー、そっか…。」

「物知りの春田さんでも、分からないかー。」


女子生徒達は、残念そうに互いの顔を見合わせる。あきらかに落胆したような声だ。

「明日から休みだし、良かったら今度アイツに聞い…調べてこようか?」

「えっ、でも…悪いよ。」

「いいの。私も知りたくなったし。…休み明けて、まだ知りたいと思ってたら聞きに来てよ。」

笑って少女はそう言う。

「そう?なら…そうしちゃおうか?」

「んー…まぁ、春田さんがいいなら。」


「わざわざごめんねー。」「ありがとー。」と、どこかよそよそしく言いながら、女子生徒達は去っていた。
少女はそれを見送って手を軽く振った後、再び持っていた文庫本を開いた。しかし、彼女の頭の中では先程の質問がモヤモヤと残る。
自分なりに色々と答えを想像してみるが、結局は机上の空論だ。
仕方なく答えを探すのを諦めた少女は、ソレの‘本当の答え’を教えてくれるであろう、[彼]の事を思い出していた。



物知りと言われる少女に、物事を教えた[張本人]を……。

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