短編集

□タマゴと母親
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タマゴが割れた。
子供が死んじゃった。
母親鳥は鳴く…泣く…啼く…。
割った犯人だれだろう?ヘビか?猫か?自分より大きな鳥達か?もしかしたら、下に居るあの二足歩行の動物かもしれない…。
けれど親鳥には犯人探しより、やるべき事がある。
巣に残っている可愛いタマゴ。母の可愛い子供達。
一つは割れてしまったけれど、この子達は割れていない。死んではいない。

「この子達は私が守らなくちゃ。」

母親鳥は決意する。タマゴを守るのは親鳥の役目。子供を守るのは母の役目。いつか巣立ちの日が来るその時まで…。

「お母さんが、守ってあげるからね。」

母親鳥はタマゴを抱えるようにあたためる。子供達が…死んでしまったタマゴの分まで、生きれるように願いながら。数個のタマゴ、微妙に形や大きさの違うタマゴ。全部守ってあげる。全部私の子供だから。
優しい笑みをこぼしながら、母親はタマゴをあたため続けた。





割れた。タマゴが割れた。
でも今度は生まれた!子供たちが!雛が!タマゴが孵ったのだ。
母親鳥は喜ぶ。赤ん坊の鳥達が、そろって自分を見る。そして母だと悟ってピーピーと鳴いた。

「お母さんだ。」
「「お母さん!お母さん!」」

母親鳥は笑う。子供が孵り、自分を母と呼ぶ。これ以上に幸せな時間があっただろうか?こんなに心が満たされたことがあっただろうか?母は思う。この為に…この子達を見る為に、自分は今まで生きてきたのかもしれないと…。
母は赤ん坊鳥を優しく見つめる。色々な子がいる。最初に生まれた元気な子。まだ目が開きにくい小さい子。けれど、どれもまだまだ小さい私の子供。

……さあ、大変なのはこれからね。




ピーピー!ピーピー!

「ごはん!」

「「ごはん!ごはん!」」

大変大変。大忙し。母親鳥はごはんをせっせと子供鳥に運ぶ。母もお腹がすいてるけれど、子供はもっとすいている。子供は育ち盛り。ごはんをいっぱい食べて大きくならなきゃいけないの。

「ボクのごはん!!」

「ちがうやい。僕のごはんだ!」

「私のごはん、勝手にとらないでー!!」

「こらこら子供たち。たりないごはんはママが持ってきてあげるから。みんなで仲良く食べましょう?」


母親鳥は笑って子供達をなだめる。子供たちは食いしん坊。だって大きくならなきゃいけないものね。
母は一番‘大きな’子供から、小さな子供まで…せっせとごはんを子供達の口の中へ運ぶ。
とても忙しくて疲れる時間。それでも母には満たされる時間だった。


……



母親鳥がごはんを持って巣に帰ると、巣の中は静かだった。

「どうした……の?」

母は巣の中を見る。巣の中の子供は黙ったまま。けれどなんだか違和感がある。母親鳥は子の数を数えた。子供鳥は1…2…。2羽、子供がいないことに気付く。私の可愛い子供。2羽足りない。まだ飛ぶことも出来ない小さな子なのに…。

「兄弟はどこにいるの?」

母は一番大きな子供に問う。その子は言い出すことを一度ためらったが、けれどちゃんと話してくれた。

「落ちちゃったの。お家の下に落ちてっちゃった。」

子供はそう答え、母は血の気が引いていく。残った子供にじっとしているように伝えて、母親鳥は巣の下へ降りていく。
下に…地面に来てみたが、子供の姿は見当たらない。
食べられてしまった…?蛇に?猫?犬?それとも自分より大きな鳥に?母親鳥はその場で立ちつくしす。愛しの子供はもう戻ってこない。母は啼く。
大事な子供が死んじゃった。






…母親鳥は子供達がいる巣に戻った。子供鳥は心配そうな表情で母を見る。

「大丈夫よ。お母さんが絶対守るからね。」

母は子供にそう告げる。この子達を絶対に死なせない。残った皆を巣立つ日まで育て上げる。


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