神様の箱舟

□二章[勝海大と二番目イヴ]
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朝…
暖かい日差しをまぶたの裏に感じるが、布団の温かさに甘えてしまう。
もう少し眠ってしまおうかと考えつつも、学校があることを思いだし、重い体を無理矢理起こした。

「…あ゛ー。」


随分とオッサンみたいな声を出してしまったが、気にしない。聞いているのは俺だけだ。俺は少しでも光を浴びようと、窓のカーテンを開けた。


「……あ゛?」


すると、窓から見える景色は異様な光景だった。俺の目の前には、俺の町に存在しないハズの1●9がそびえ立っており、道路には車はひとつもなく…車どころか人すら見当たらなかった。

カアー、カアー。

…カラスは居るようだが。
なんだ、まだ夢を見ているのか?その考えとは逆に覚醒しだす身体に違和感を覚え、俺は首をかしげた。
すると部屋の下からパタパタと足音が聞こえ、その足音は少しずつ大きくなるとピタリと止まり、コンコンと俺の部屋の扉をノックする。


「…?どーぞ。」

夢のはずなのに、妙にリアルなノックの音を不思議に思いながらも、俺はとりあえず返事をする。するとキィと音をたて、ゆっくりとその扉は開かれた。

「あ、ひろ。起きてたんですね。」

扉から顔を覗かせたのは、金髪の可愛らしい美少女だった。彼女を知らないはずなのだが、妙に最近彼女と会ったような気がする。………と言うか、昨日会った。
昨日……そうだ、彼女は…

「い、イヴ?」

「はい、おはようございます。ひろ。」

「あ、ああ。おはよう。え、てことは…ここはエデンとか言う異世界?」

「…?はい。」

「……夢じゃない?」

「……?夢じゃありませんよ。」

「ぅ……うえぇぇぇえぇぇっ!?



俺は朝から早々、大声で叫んだ。

はい、思い出しました。
夢じゃありませんでした。俺、勝海大は昨日から自称神様ことカミサマに拉致され、同じく拉致された(らしい)美少女のイヴと夫婦になってくれとか言われて、そんで結局この変な世界(と言われる場所)に住むこととなったんでした。


「どっ、どうしたんですか!?」

イヴは大きな目をより大きくして、俺を見ている。どうやら、さっきの大声に驚いてしまったらしい。

「あっ、悪い。俺もその…びっくりして……」

「はあ……ふふ。私もびっくりしましたよ。」

「ご、ごめん。」

俺が謝るとイヴは「大丈夫ですよ」と、どこか楽しそうに笑っていた。

「顔を洗ったら、着替えて下に降りてきてくださいね。私、朝食を作りますから。」


イヴはそう言うと、部屋を出ていった。
ホント昨日からずっと思っていたけど可愛いな///
……と、ちょっと待て。俺は先程のイヴの言葉を思い出す。
さっき、下で朝食作るとか言ってなかったか!?
ちなみに此所は俺の家(に瓜二つな家)だ。朝飯って俺ん家の台所で作ってるんだよな?しかも俺の分まで作ってくれてて……それって、まるで夫婦みたい…。
そこまで考えて俺はベッドに飛び込み、枕に顔を埋めたままじたばたする。嬉しいような恥ずかしいような…そんな、こそばゆい気持ちになった。
そしてしばらくたつと、気持ちも落ち着き次第に馬鹿らしくなってきたので、ベッドから降りて立ち上がる。
俺は、とりあえず机に置いてあったスマホを手に取った。通話アプリをタッチするわけでもなく、俺はためらいなく画面に向かって話しかける。


「おい、返事しろよカミサマ。居ねーのか?」

するとすぐに画面から文字が現れた。

『言葉使いが荒いぞー(T_T)さっきまでイヴの手作り朝ごはんに浮かれてたヤツがー(・ε・` )』

「っ…見てんじゃねーよ!!」

やっぱり居た。…という言い方もおかしいが(汗)
ハンドルネーム‘カミサマ’。俺とイヴを拉致監禁したかと思われる、自称神様の変態だ。←
俺はコイツのせいで、ほぼ無理やりこの俺とイヴ以外、人が存在しないという奇妙な世界(?)に居座ることとなったのだ。
そして何故か、俺が今持っているこの携帯と、このエデンにあるネットカフェのパソコンで、この変人と会話をすることが出来るらしい。

『しかし、未だに彼女を‘イヴ’呼びか…( ̄〜 ̄)』

「仕方ないだろ。結局教えてくれなかったんだよ。と言うか……」

そう、あの美少女…イヴは、本当の名前ではない。彼女の名前は、神様がエデンに住む者として、旧約聖書とやらの世界で最初の人間、アダムとイヴにちなんで名付けられた名前なのだ。
ちなみに、その最初の人間のアダムとイヴが1番目らしいので、彼女は2番目イヴ…と言うらしい。俺も、11番目アダムらしいしな。

だから、彼女の本当の名前を知りたかったのだが…




**回想**
昨日のこと…


「そういやカミサマから聞いたんだけど…イヴって名前、本当の名前じゃないんだよな?」

「…ええ。そうですね。」

「できれば、イヴの本当の名前を知りたいなーって思うんだけど…………ダメか?」


名前と聞いて顔をうつむかせ沈黙を続けるイヴに、聞いてはいけないことを聞いてしまったかと、俺の中で緊張する時間が流れた。


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