進撃の巨人(リヴァエレ)

□おにのかくらん
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「「「リヴァイ(兵長)が風邪ぇええ!?」」」



朝から雲ひとつない快晴包まれたある日の事。

旧調査兵団本部会議室に、とある幹部陣達の驚きの声が上がった…。



* おにのかくらん *

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ここは旧調査兵団本部会議室。

本日はここでエレンの巨人化実験についての打合せをすべく、エルヴィン、ハンジ、モブリットの3名が集まっていた。

本来であればここにエレンの行動についての全権限を持つリヴァイと、当事者であるエレン本人も来る筈なのだが、会議時間になっても二人とも現れない。

リヴァイはとても几帳面な性格だしエレンは真面目な性格をしているので、二人共基本的に会議の5分前には席に着いている事が多いのだが今日に限って何故か現れない。

今日の議題はリヴァイの恋人であるエレンに関しての事なので、絶対に何があっても現れる筈だ。おかしい。集まった3人は首を傾げた。

そして待つ事更に5分。

相変わらず姿を見せないリヴァイ達をモブリットが呼びに行こうと席を立った時、ふいにノックの音が響きエレンの入室許可を求める声が聞こえてきた。

エルヴィンが入室を許可し、エレンが謝罪の言葉と共に慌てて入室してくる。

しかしその傍にリヴァイが居ない。

3人は更に首を傾げた。

「ねえ、エレン。リヴァイはどうしたの?一緒じゃないの?」

「その事なんですが…本日の会議にリヴァイ兵長は“欠席”と言う形でお願いしたいのですが…」

「え、何?リヴァイ急用でもできちゃったの?」

ハンジの問いかけにエレンは少しだけ目を泳がせながら口を開いた。

「えーっと、ですね。兵長は、急に巨人を駆逐したくなったと言われ、立体起動を使用し外に飛び出して行きました?巨人の模型でも削ぎに行ってみえるんではないかと?俺が止める隙もありませんでした申し訳ありません」

「……」

「……」

「……」

「……」

エレンの言葉にハンジ達は目を丸くしてエレンを見つめた。

見つめられたエレンは大層居心地が悪そうに明後日の方を向いている。

そのエレンの耳は見事に真っ赤。顔まで赤い。

エレンは今の言葉で誤魔化せるとでも思っているんだろうか。もしも先程の言葉で自分達が誤魔化されると思っているなら、おめでたい頭をしているとしか言いようがない。

そう言えばエレンの座学の成績は悪かったな、と3人はこの時思いだした。

3人は顔を見合わせたあと、3人を代表しエルヴィンが少しだけ言い辛そうに口を開いた。

「その…エレン。それで誤魔化したつもりなのだろうか?」

「え、ごごご誤魔化すとは一体?俺はただ事実を…」

「分かってるってエレン。リヴァイに本当の事を言うなって言われてるんでしょ?大丈夫、例えリヴァイがドジって怪我して部屋から出られなくなってても、二日酔いで動けなくても、会議の事忘れてどっか遊びに行ってたとしても怒らないから。本当の事を言ってごらん?」

「そのとおりだ、エレン。例えどんな理由でリヴァイが来れなくなっていたとしても、リヴァイを咎める事はしないと約束しよう。だから教えてくれないか?」

「……」

ハンジとエルヴィンに両側を挟まれ、エレンは半泣き状態である。

どうして自分の嘘がばれたのだろうか、と必死に考えている様だが、あんな説明で誤魔化せると思う方が間違っている。

むしろあんな誤魔化し方をされたら本当の理由が気になってしまうではないか。

もう少し上手い嘘を吐けばエルヴィン達だって騙されてやっても良いかもしれないと思ったものを…エレンは本当に素直で良い子である。

エルヴィンはもう一度エレンに告げた。

「エレン。私は団長として君に正直に話すように命令する事も出来るんだよ。しかし、出来ればそんな事はしたくない。私は兵士の自主性を重んじているからね。…だから自主的に、正直に、話してくれないか?」

エルヴィンの言葉にエレンは一瞬躊躇したあと、諦めた様に肩を落とした。

そして言いにくそうにぽつりぽつりと語り始めた。

「じ、実は先程俺が報告した事は虚偽のものです…リヴァイ兵長はこの旧調査兵団本部内にいらっしゃいます…」

「うんうん。そうだよね。で、この建物内にいる筈のリヴァイが何で会議に出られないのか教えてくれるかな?」

「…リヴァイ兵長は、現在40℃近い高熱を出しており喉も痛い様で全く喋る事が出来ません。本人は元気だ大丈夫だ問題ないと言い張っていますが、本日の会議に出席出来る様な状態ではないと判断しました。その為、リヴァイ兵長は会議を欠席させて頂きたく…」

「え、何?それって…」

「はい。まあ簡単に言うと…リヴァイ兵長は現在風邪でダウンしているんです。それで、“人類最強と言われている男が風邪で寝込んでいるなんて恥ずかしいから誰にも言うな”と兵長に脅され…いえ、口を酸っぱくして言われておりまして…。それで先程はあんな嘘をつきました。本当に申し訳ありません」

本当に申し訳なさそうに頭を下げるエレンに、3人の幹部達は顔を見合わせた後叫んだ。



「「「リヴァイ(兵長)が風邪ぇええ!?」」」



古城内に響き渡る程の声に、皆には言うなと言われていたエレンは慌てた様に「し、静かにしてください!」と口元に手を当てた。

しかしそんなエレンを他所にエルヴィン達は大盛り上がりだった。

「リ、リヴァイが…あのリヴァイが……ぶふっ…まさかの風邪!風邪の方が尻尾巻いて逃げだしそうなのに…!」

「ハンジ…人の不幸をそう…笑う、ものではないよ。…ふっ…!」

「エルヴィンこそ…っ、言動が一致してないよ。顔が笑ってる…っ!」

「団長、分隊長!笑いすぎです!」

人類最強を襲ったまさかの体調不良に、ハンジは腹を抱え笑い、エルヴィンは込み上げる笑いを堪える為に体を小刻みに震わせていた。そんな二人をどうにか宥め様とするモブリットもどこか困惑気味だ。

リヴァイの患った病気がもしも不治の病であればこんなに呑気に笑ってはいなかったが、リヴァイが今患っているのは唯の風邪。これが笑わずにいられるか。

しかし大切な恋人の体調不良を笑われたエレンは、どこか不機嫌そうだ。

「ご、ごめんね、エレン。でもまあ風邪も立派な病気だもんね。あのリヴァイが高熱出すとかあり得ないし、心配だね…ぶふふ…っ」

「笑ってしまってすまないね、エレン。しかし、あれだな…こう言う状態の事を言い表す諺が東洋の方にあったような気がするな…般若がどうとか…」

「鬼の霍乱です。般若は関係ありません、エルヴィン団長」

「それは失礼した…それにしてもエレンは物知りだな」

「幼馴染の一人が東洋人なものですから…」

エルヴィンに褒められたエレンは照れたように笑った。その笑みはとても可愛く、エルヴィンは思わずエレンの頭を一撫でした。

そしてエルヴィンはハンジに目配せすると、徐に立ち上がりある場所へ向かう為に歩き出した。

その後を当然の様にハンジも続く。

そんな二人の行動にエレンはきょとんとした様子で首を傾げた。

「あ、あの…?会議はよろしいのでしょうか?」

「良いかい、エレン。会議なんていつでも出来る。そんなものよりも今はリヴァイの体調不良の方が重要だ。大事な部下が風邪で苦しんで居るのを捨て置くなんて私には出来ない。ここは団長として見舞いに行かなければいけないと思ってね」

「そうそう!こんな面白…じゃなかった大変な事態にじっとしてなんかいられないよ!私は医療知識を有する者としてリヴァイの容体をきちんと診察しなければいけないと思うんだ!」

「「と、言う訳で…リヴァイの所に行って来る!」」

じゃ、っと手を上げるとエルヴィンとハンジはそのまま会議室を飛び出して行った。

ご丁寧にもハンジはモブリットへ「お見舞い用に何か果物でも買ってきておいて〜」と走りながら叫んでいた。

二人の突然の行動に驚くエレンとモブリットが「はっ」と我に返った時には二人は影も形も見えなくなっていた。

エレンはモブリットに「し、失礼します!」と一度礼をすると、慌てて二人の後を追いかけて行く。しかしスタートが遅れてしまった以上、エルヴィン達がリヴァイの部屋に辿りつく前に二人を止める事は難しいだろう。

五月蝿い分隊長と喰えない団長の襲撃にあった、人類最強の怒れる様が目に浮かぶ。



一人残されたモブリットは、この後起こるであろう事態を想像して懐から常備してある胃薬を取りだし一粒飲んだ。

そしてモブリットは二人を追いかけて行ったエレンの向かって言った方に手を合わせると、とぼとぼと外に向かった。勿論、分隊長の命令を完遂する為に街に繰り出すのである。

モブリットは果物を買うついでに、エレン用の胃薬と栄養剤も買って来てやろうと思った。
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