うたプリ(春歌受)
□エイプリル
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「実は私…いえ、俺は男の子なんです!」
TV局の休憩室。
そこで春歌は恋人であるレンにそう爆弾発言をした。
そう言った時のレンのぽかんとした表情は、未だかつて見た事がない間の抜けた表情で、春歌はとても申し訳ない気持ちになった…。
* * *
「ちょ、ちょっと待ってくれないかいハニー。それは一体どういう……」
「えーと、先程も言った通りわた…俺は実際の性別は男だったんです。林檎先生に憧れて女装作曲家としてデビューしようと思って…ですね」
そう言う春歌は普段とは違いレンの顔を真っ直ぐ見る事無くそう告げる。
その彼女の視線の先にはカレンダー。
今日は4月1日。
今日は世に言う所のエイプリルフールである。
今日一日はどんな嘘をついても許されるとは誰が言い出した事なのだろうか。
普段イベント事にそれ程興味のない春歌だが、今回は前回ST☆RISHのメンバーと行った王様ゲームの罰ゲームの一環としてこのイベントに参加する事になったのだ。なので今隣の部屋には今回の作戦の企画立案を行ったST☆RISHの面々が聞き耳を立てていたりする。
(す、すみません。ダーリン!)
春歌はレンに心の中で謝罪しながら、それでも罰ゲームを真面目にこなすべく嘘をついた。
「ダーリンを愛する気持ちは本当です。でも性別を偽ったままダーリンとお付き合いするのが辛くなって来まして…」
「…………」
「…やっぱり許しては頂けない…ですよね」
無言のレンに春歌は目を伏せ、悲しそうに俯いた。…勿論実際に悲しんでいる訳ではなく、あくまでフリである。
だがそんな春歌の肩をレンはポンと慰める様に叩いた。
「……頭を上げて、ハニー」
「……」
レンの言葉に春歌は恐る恐る頭を上げた。
「俺の愛をなめてもらっちゃ困るね。俺のハニーへの愛の前には性別なんて関係ないさ。と言う訳でハニー。君は今パスポートを持っているかい?」
「……は?」
「パスポートだよ。ハニーはパスポート持ってるかい?」
「え…い、今は持っていませんが家に帰ればあります…けど…」
春歌はレンの言っている事が理解出来ず首を傾げながらその問いに素直に答えた。レンは春歌の答えに満足げに頷くと春歌をひょいと抱き上げた。
「じゃあ行こうか、ハニー」
「どどどど何処にですか!というか降ろしてください!」
「何処にって決まってるじゃないか。君と結婚出来る国に行って既成事実でも作るんだよ。」
レンの言葉に春歌は目を丸くした。
レンは何を言っているのだろうか。
自分の不用意な発言のお陰で自分とレンが国外逃亡……?
春歌は自分とレンがどこの国かも分からない場所で結婚する場面を想像し顔色を変えた。
レンと結婚するのはとても幸せな事だが、自分は国内で結婚式を挙げたい。
というかそもそも自分を男だと勘違いしたままのレンと結婚するなんてとんでもない。
春歌はレンの腕の中でじたばたと暴れ始めた。
「お、落ち着いてください!落ち着いて話し合いましょう!」
「落ち着いてるから大丈夫。ああ…楽しみだよ。こんなに早く君と新婚旅行に行けるなんて思ってもみなかったからね」
「新婚旅行って何ですか!というかそもそも私達まだ結婚していません!」
「だから今から結婚しに行って、そのまま新婚旅行だよ」
「その間仕事はどうするんですか!」
「キャンセルする」
きっぱり言い切ったレンは、春歌を抱き上げたまま部屋を出ようとした。
これは不味い。
このままでは自分は国外逃亡する羽目になってしまう。春歌は覚悟を決めて叫んだ。
「ご、ごめんなさいダーリン!さっきのは嘘なんです!今日はエイプリルフールなのでちょっと嘘を吐いてみました。反省してますごめんなさい!だから許して下さい!」
「うん。知ってるよ」
「…はい?」
あっさりと言い放たれた言葉に春歌は思わず抵抗を止めた。そんな春歌にレンが悪戯っぽく笑った。
「ハニーは嘘を吐くのが下手だからね。今日が何の日かもハニーの可愛い嘘も最初から分かってたさ」
「じゃ…じゃあ何で……」
「んー?なんとなく楽しそうだったから乗ってみたんだ。ハニーが申し訳なさそうに嘘を吐く姿も可愛かったしね」
「…………」
やはり自分にレンを騙す事など出来なかったのだ。レンを騙すには修行不足であった。
春歌はレンの腕の中で項垂れ、そして諦めたように謝罪の言葉を口にした。
「すみませんでした……」
「だーめ、許さない」
「…………え?」
予想していなかったレンの言葉に、春歌は驚きに身を固くした。都合のいい話だが今回の事はイベントに乗っての嘘であり、レンなら許してくれると思っていたのだ。
「エイプリルフールとはいえハニーに嘘を吐かれて俺は傷ついたよ。だから今日は一日ハニーに俺の心の傷を癒して貰わないとね。ああ、でもさっき言ったみたいに国外逃亡はしないから安心して。俺の部屋でゆっくり……ね」
レンはそう言うと腕の中で固まる春歌の唇に掠める様なキスを降らせると、今度こそ部屋を出るべくドアノブに手を掛けた。
そしてレンは部屋を出る間際に思い出したように隣の部屋に聞こえる程の声で告げた。
「……ああ、そうそう。隣で聞き耳を立てている5人についてはまた後日改めて【御礼】に行くから楽しみに待っててね。…それじゃ」
レンはそう言い残すと、春歌を腕に抱いたまま部屋を後にした…。
そして2日後…TV局では妙に疲れ切った様子のST☆RISH(レン以外)と専属作曲家七海春歌が廊下で顔を突き合わせている姿が目撃される事になる。
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【あとがき】
平成24年4月のうたプリオンリーでカップリング毎に配布させて頂いた配布物です。
レン君の春歌ちゃんに対する愛情は性別すらも超えると思います。