うたプリ(春歌受)
□エイプリル
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「時にハル…少々尋ねたいことがあるんだが、手は空いているだろうか」
「大丈夫ですよ〜。何でしょうか?」
「その…聞き辛い事なのだが…嘘とはどのようにしてつくものなのだろうか…」
真剣な顔で言われた言葉に春歌は笑みを浮かべたまま固まり、思わずカレンダーを見た。
今日は4月1日。
エイプリルフールなので、嘘を吐いても良い日なのだが、これが真斗なりの嘘なのだろうか…。
* * *
真斗の嘘か本当か分からない発言の後、春歌は真斗に詳しい事情を聞いた。
曰く…
『一十木が今日は嘘を吐いても良い日だと、ある事無い事を吹聴していた。一十木の様子がとても楽しそうだったので、俺もそれに乗ってみようと思ったのだがとっさに吐ける嘘が見つからなかった。そして考えれば考える程深みにはまり、最終的にどのようにして嘘をつけば良いのか分からなくなった。と言うか嘘を吐いても良い日と言うのはどう言う事なのか意味が分からない』
との事だった。
そう言えば今朝音也が「雪が降ってるよ!」と楽しそうに電話をしていた様な…。だが今日はエイプリルフールであり、軽微な嘘であれば皆笑って許してくれる。
真斗はそれが楽しそうに見えた様だ。
確かに真斗が育った環境では、エイプリルフール等といったイベント事を一緒に楽しみ、教えてくれる様な人はいなかったのだろう。しかし知らない事は徐々に知って行けば良い。
真斗と一緒に色々なイベント事を楽しんで行くのはとても楽しそうだ。春歌は真斗の隣に腰を降ろすと、改めてエイプリルフールがどう言う物か、と言う事から説明をし始めた…。
「……なるほどな。誰が考えたのか知らんが、面白いイベントがあるものだ」
春歌の説明を聞き終わった真斗はそう言うと、神妙な面持ちで頷いた。そんな真斗に春歌は少々恥ずかしそうに笑った。
「そうなんです。でも私も嘘を吐く事が苦手なので、真斗君と同じくエイプリルフールに便乗して何かをした事はないんです」
「そうか…では俺とお前は一緒だな」
春歌の暴露話に真斗は嬉しそうに頷いた。
「はい。なので真斗君さえ宜しければ、一緒にエイプリルフールを楽しませて頂けませんか?」
「勿論だ。ハルが一緒であれば心強い」
「ありがとうございます!では丁度良く今日は一日お休みですし、皆さんに嘘をつきに行きましょうか」
「ああ、そうだな。だがハル。今日ついていいのはどんな嘘なんだ?」
「えーと、誰かを傷つけたり、とりかえしがつかなくなる様な事じゃなければ良いと思うんですが…。あ、あと嘘を吐いても良いのは午前中だけみたいなのでそれも気をつけましょうね」
「そうか……。では、時間との勝負だな。沢山の人に嘘を吐けるよう頑張ってみよう」
そして二人は何だかおかしな方向に納得すると、そのまま部屋を後にした。
* * *
二人は先程の宣言通り、廊下を1時間程練り歩き、様々な嘘をついた。
朝から張り切って嘘をつきに来た音也には、「今日は4月2日だから嘘を吐いた相手に対して謝罪をしてきたらどうか」と告げた。
そして次に出会った那月には…嘘をつこうとしたのだが、出会った那月の顔から眼鏡が無くなっていたのでそそくさと方向転換をした。
自分たちだって命は惜しい。
そして林檎には「先程宇宙人と思われる地球外生命体に会い、可愛い子を紹介してくれと言われたので林檎先生の写真を渡したら大層気に入っていた様で、また会いにくるそうです」と言ってみた。
更にたまたま会った龍也には「実は年齢を誤魔化していて実は俺はもう30歳なんですが、アイドルとして大丈夫でしょうか」と相談を持ちかけてみた。
皆それぞれ真剣な顔で、話を聞いてくれたので、嘘は成功だろう。だが残り時間はあと僅か。
もう嘘を吐く機会もないだろうと思っていたのだが、前方から見慣れた人物がやってきてしまった。
それは神宮寺レン。真斗のライバルだ。
彼は真斗と春歌が歩いているのを見ると、春歌にのみ甘い笑みを向けながら近寄って来た。
「やあ、レディ。こんな所で会うなんて奇遇だね。どうしたんだい?」
「え、えーとちょっと色々とありまして…」
そう言葉を濁す春歌は時計を見た。
現時刻は午前11時55分。
あと5分で嘘はつけなくなってしまう。
とすると最後のターゲットはレンだ。真斗と春歌は顔を見合わせると頷き、真斗がレンの肩を叩いた。
そして不機嫌そうに振り向いたレンに、真斗は今日一番の嘘を吐いた。
「俺はお前の事が好きだ」
「……………………」
「……………………………………」
「……………………………………………」
突然ライバルからそんな事を告げられたレンは、振り向いた姿勢のまま硬直している。
だがしかしこの嘘は言った本人にも大ダメージだった。真斗は自分で言って自分でレンとらぶらぶしている姿を想像してしまったのか、うっと口元を押さえた。
一方事情を知らないレンはと言うと、真斗の言った事を理解出来なかった…と言うか言葉としては分かっているが、頭が理解するのを拒んだのだろう。
レンはそのままバターンと言う大きな音を立てながら後ろに引っくり返った。
と、その時12時を告げる鐘がなった。
12時を過ぎたと言う事はもう嘘を吐いてはいけないと言う事だ。
真斗と春歌は互いに目を合わせると、同時にため息を吐いた。
「エイプリルフールとは…意図的に嘘を吐くのは中々にきついものなのだな。一十木は何故ああも嘘を吐くのを楽しめたのか…」
「はい。嘘を吐くのは中々大変な事でした…。来年は嘘を吐くにしてももう少しハードルの低い嘘をつきましょう」
「ああ、そうだな」
真斗はそう言うと引っくり返ったレンを背負った。
流石に自分の嘘が原因でもあるんだし、このままにはしておけないだろう。体格差等中々辛いが、医務室にまで運ぶ位はしてやろう思ったのだ。
だがそれは叶わなかった。
医務室に向かおうとした時に、先程真斗達が嘘を吐いた面々が皆勢揃いでやって来たのだ。
「酷いよマサ!やっぱり今日は4月1日じゃん!」
「まー君!宇宙人はいつ来るって言ってたの!?先生とりあえず防具武器は一通り持って来たんだけど!」
「おーい、聖川。年齢詐称についてはまだどうにか裏で手を回せば…」
皆はそれぞれ叫びながら二人の元にやってきた。
そして皆揃った所で、皆は顔を見合わせた。何か可笑しいと思った様だ。
そんな皆に真斗が何事かと首を傾げる。
そしてはっと気付いた春歌が皆にネタばらしをした。
「あ、あの……今日はエイプリルフールと言う事で、先程皆さんにお伝えした事は全て嘘なん…です…が」
春歌のネタばらしに皆相当驚いた様で、暫く絶句した後各々絶叫した。
まさか“超”がつくほど真面目な真斗が嘘を吐くとは誰も思っていなかったらしく、皆見事に騙されたらしい。どの嘘も少し考えれば分かる筈だと思うのだが、普段真面目な人間がたまに嘘を吐いても嘘だとは思われず、信じられてしまう様だ。それもそれで困ったものである。
そしてフロア中に響き渡った絶叫の所為で、真斗と春歌のエイプリルフール事件についてはシャイニング早乙女も知る所となり、レンと言う被害者(この件のお陰で数日寝込んだ)翌年からシャイニング事務所内でエイプリルフールが禁止された事は言うまでもない。
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【あとがき】
平成24年4月のうたプリオンリーでカップリング毎に配布させて頂いた配布物です。
天然同士がタッグを組むと色々と凄そうです。