薄桜鬼(沖千)

□たくさんの好きと、たくさんの愛を、きみに。
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為三郎達のお陰で千鶴への思いを自覚した沖田。

自身の想いを自覚した後の沖田の行動力は凄かった。

今までの千鶴への虐めが嘘の様に言葉や行動で…周りがどん引きする程に身体全体を使って千鶴への愛を訴えたのだ。

そして千鶴への愛に目覚めた沖田は千鶴の迷惑を顧みず、今日も今日とて千鶴に熱烈な求愛活動を行っていた…。





  *  *  *





「ねぇ千鶴ちゃん、一番組今から巡察なんだけど一緒に行かない?僕は千鶴ちゃんと一刻たりとも離れていたくないんだ。ああ、僕が絶対守ってあげるし危険はないから安心してくれて良いよ」

「は、はあ…ありがとうございます」

千鶴は沖田の誘いに曖昧に頷いた。

今まで一番組の巡察へ同行する場合は、千鶴が沖田にお願いし沖田が嫌味を言いながら渋々それを了承する。といった形だったのだ。

それが変わったのは突然だった。

いつしか沖田の方から巡察に誘われるようになり、巡察中もとても大切に扱ってくれる。

“あ、千鶴ちゃん。そこ段差があるから気を付けてね”

“今日は沢山歩いたから疲れたでしょ?帰りに甘味処に寄っていこうか”

…などなど、今迄では考えられない程の高待遇だ。

挙句、沖田は何故か事あるごとに千鶴に可愛いとか好きとか伝えてくる。

最初は沖田が変な病気にかかったと思い千鶴は心配した。

だが今ではこれも沖田の新手の嫌がらせだと思っている。

他の幹部も沖田の豹変っぷりを不審に思っているらしく、千鶴に理由を聞いて来た事がある。

だが聞かれた所で千鶴に心当たりなんてある筈がない。

むしろこちらが理由を教えて欲しい位だ。

過剰なまでの沖田の優しさに千鶴の繊細な胃がきりきりと痛みはじめ、最近では夜も熟睡できなくなった。

このままでは自分は倒れてしまうのではないか、そう危惧し始めた千鶴は決意した。

急に優しくなった理由を直接沖田に聞いてみようと。

今は周りに誰もおらず、沖田と千鶴の二人きり。

今が理由を問いただす良い機会だと思った千鶴は、沖田の隊服の裾を引っ張った。



「あ、あの…沖田さん」

「ん?何かな千鶴ちゃん」

振り向いた沖田は千鶴に声を掛けられて上機嫌だ。

やはり聞くなら今しかない。

千鶴はごくりと唾を飲み込むと、心を落ち着かせるように息を吸った。

そして意を決して口を開いた。

「最近沖田さんは何故か私に今まででは考えられない位優しくしてくださいますが、何かあったのでしょうか。私は沖田さんに何かした覚えはないのですが、気付かない内に沖田さんの不興を買う様な事をしてしまったのでしょうか?それとも沖田さんに何か心境の変化でもあったのでしょうか!?」

千鶴はそう一息に言い放ち目をぎゅっと閉じた。

何を言われるか分からなかったし、千鶴の言葉に沖田が不機嫌になる可能性もあったからだ。

前みたいに頬を引っ張られるかもしれない。

だが千鶴の危惧とは裏腹に、沖田は怒った様子も気分を害した様子もない。

虐められる気配のない事に千鶴は恐る恐る目を開けた。

その千鶴の視線の先では沖田が先程以上ににこやかな笑みを浮かべている。

その「よくぞ聞いてくれました!」的な笑みを見て千鶴は自身の失敗を本能的に悟った。

物凄く嫌な予感がしたのだ。

「…や、やっぱり私の気のせいですよね!今の質問は忘れてください!」

千鶴は慌てて質問を取り消そうとしたのだが、沖田が許す筈もない。

沖田は千鶴の手を取ると、千鶴の目をしっかりと見つめて熱く語り始めた。

「今までの行動は謝るよ。実は今まで僕が千鶴ちゃんを虐めていたのは愛情の裏返しだったみたいなんだ。ほら、好きな子程虐めたいって言うでしょ?あれだよあれ」

「そ、そうなんですか?」

「うん、そう。そして僕はつい最近、為三郎のお陰で千鶴ちゃんへの愛に目覚めたんだ。僕が千鶴ちゃんの事を誰よりも好きだと言う事に気付けた事はとても素晴らしい事だよね。あの日から僕の目に映る世界は薔薇色に染まって見えるんだ」

「ばらいろ…」

そんな色をした世界を千鶴は見た事がない。

沖田の頭は大丈夫だろうか。

千鶴の心配を他所に、沖田は力説する。

「今まで千鶴ちゃんを虐めて無駄にしてしまった時間を取り戻す為にも、僕は千鶴ちゃんの傍に居たようと思う。そして千鶴ちゃんへの思いの丈を叫びたいんだ。千鶴ちゃんへの愛は海よりも深く山よりも高いんだって事を分かって貰いたい」

「………」

そうですか、なんて言えない。

というか俄には信じられない話だ。

沖田が千鶴の事を好きになるなんて事、天地が引っくり返ってもないと思っていたのに…。

「あ、あの…」

「なにかな?」

「私はあくまで男としてここにいないといけない訳で…ですので沖田さんのお気持ちに答える訳には…」

「もしばれたとしても、幹部は別宅を建ててそこに妻を迎えて良い事になってるから問題ないよ。それに千鶴ちゃんとだったら例え衆道と思われても僕は気にしないし」

「…私は気になるんですけど……」

千鶴の主張は最もである。

衆道とは所謂男同士の恋愛であり、千鶴はそう言うものに免疫も興味もない。

女である自分が衆道と勘違いされるのは嫌である。

「そう?僕は気にならないけど…。まあでも千鶴ちゃんが気になるのなら噂する奴も気になるやつも全員斬っちゃうから心配しないで」

にっこり笑う沖田に千鶴は顔を青褪めさせた。

そんな事をしたら屯所から人が消えてなくなるではないか。

千鶴は慌てて先程の意見を撤回した。

「じょ、冗談です、ごめんなさい!で…でもですね…私はまだまだ子供なので恋愛事に興味を持てないんです。ですから申し訳ないのですが…」

「興味がないならこれから興味を持てばいいんだよ。大丈夫、僕が優しく教えてあげるよ」

沖田はそう言うと、千鶴を抱きしめるべく腕を伸ばしてきた。

だが辛うじてその行動に気付いた千鶴は、後ずさり沖田の腕を避けた。

そして「ご、ごめんなさい!ちょっと頭とお腹と胃が痛くなってきたので失礼します」と叫ぶと、その場から脱兎の勢いで逃げ出した。

もうこの場にいる事に耐えられない。

土方に了解を貰って今日は一日部屋に籠って寝よう。

布団を頭から被って寝るんだ。そうすれば起きたら夢だった、的な展開が待っているに違いない。いや、待っていて欲しい。

だがそんな現実逃避を願う千鶴の耳に、ふいに沖田の声が届いた。



「愛する千鶴ちゃん何かあったら心配だから巡察が終わったら様子見に行くね!」



沖田はそう言うだけ言って巡察に向かったようで、追いかけてくる気配はなかった。

だがその言葉は千鶴の精神に多大な打撃を与える事になった。

千鶴はその場にへなへなと座り込み、偶然廊下を通りかかった土方に助けられるまでその場を動く事が出来なかった。



人に好かれるのはとても嬉しい事だが、度合いにもよる事を千鶴はこの日初めて知った。



だが沖田にそんな千鶴の心情を理解できる筈もない。

沖田はこの後も感情の赴くまま毎日の様に千鶴に熱烈な求愛活動を行った。



狙った獲物は逃がさない。

そんな沖田の過度な求愛行動は、千鶴が根負け(?)して沖田の事を好きになるまで終わりそうもない。

沖田の愛の暴走はまだまだ続く…。







―*―*―*―*―*―*―*―*―*―


【あとがき】

前作「ねえ。その痛みはやっぱり、くるしいですか?」の続きです。

沖田さんは思い込んだら一直線。欲しい物は手に入れなければ気が済まない。的なタイプだと思います。

でも突然態度を変えられ「好き」と言われる千鶴ちゃんはたまったものではないですよね(笑)

頑張れ千鶴ちゃん!

まだまだ続きます
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