情熱の番外編

□渾身のイヴ×イヴ
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「呼んだのに、気付いてくれないからタックルしてみた。」
「・・・・・・そういう呼び止め方はアリなのか?」
「ごめん。痛かった?」
「大丈夫よ。」

予想外。
こんなとこで会うなんて。

このシュウ君、という子は、私の通っているバーのマスターの弟君。
私が飲んでいるタイムサービスの時間帯にお店を手伝いに来ることが多くて、よく話すようになった。
割とのんびり屋さんなのに、たま〜におかしなことをする。

「こんなとこに用なの?」

私がここにいたら、そう思うよね。
住人と生徒しか用がないって主張しているような、静かな街だもの。

「あの丘の上の教会で明日の夜、ミサを弾くことになったの。今から練習。」
「ミサ!?クリスチャンだったんだ。」
「いや、違うんだけど、パイプオルガン習ってるから、先生のツテでたまたま・・・・・・」

ちらり、と駅の時計を見る。
やっぱりぎりぎり。
話し込む時間はなさげ。

「もう行かないと。」
「あ〜、俺もそっち。」
「そうなの?」
「家、そこの教会の近所。」

お供ができた。
シュウ君は自宅がこっちなのか、ここの高校じゃなくて。

「良かった。ちょっと怖かったんだよね。」

坂は狭くて人通りが少ない。
でも、坂だけが怖いわけじゃない。
どちらかと言うと、教会の中。
お化けの類が出てきそうで、ニガテ。

「一人で練習するの?」
「そうだよ。」
「物騒じゃん。この辺、最近変質者出てニュースになったけど。」
「大丈夫だよ、中から鍵閉めるから。」
「でも、出たところで襲われるかもよ。」

お化けよりは変質者のほうがマシだ。
まだ、人だもの。
話しながら坂を上って息切れ。

もう日はとっくに暮れていて夜道は暗い。
教会近くは木も多く茂って電灯も隠れ気味で、もっと暗く感じる。

「俺、一緒にいたらまずい?パイプオルガン見てみたい。」
「今日?」
「うん。間近で見られるチャンスなんて、そうそうない。」
「私、切羽詰まってるから本当に見てもらうだけしかできないよ?」
「いいよ。人類史上最古のメカ見てみたい。」
「おお、物知り。じゃあ、ちょっとだけだよ。」
「やった〜。夕飯食べたら行くね。」

『やった〜』は私のほうだよ。
9時まで1人は正直、キツかった。

夕飯食べたら、っていうのが、ちょっと子供っぽくてかわいい。

シュウ君は教会の裏口のところまで送ってくれた。
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