情熱の扱い方〜前編〜
□最後に好きになった人
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本人は攻撃しているつもりはないんだろうけど、色気があるし、雰囲気に飲み込まれて、ドキドキしてしまう。
沈黙に負けて私はしゃべり出す。
「医者になったんだよね?結局、どこに行ったの?」
私の知っている澤村君は医学部の学生だった。
「脳外だよ。そのまま大学病院にいる。」
脳外(のうげ)・・・・・・脳神経外科。
「ああ、手先器用だったもんね。・・・・・・すごいね。副院長のとこか。」
「宮井さんは・・・・・・」
急に、奴はカウンターに片方の肘を載せて、私のほうに体を向けた。
そんな行動にもビクビクしてしまった。
「今日、何してたの?綺麗な格好して。」
「・・・・・・お、お出かけ?」
お見合いなんて言えない。
恥ずかしすぎるもの。
それより、お出かけって何よ。
奴が聞いていたのはどの種類のお出かけなのか、じゃないの。
「・・・・・・あ、そ。似合ってるよ。」
意外にも突っ込んでこなかった。
そういうの察する年齢になっちゃったのかな。
あら?
似合ってるとか言った?
「・・・・・・ありがと。」
そして。
緊張して、味も分からないままロゼを飲み干し、キョウコさんの目の前にあったキスチョコを無意識に食べまくって、タイムアップ。
澤村君を見上げてみた。
これが・・・・・・見ちゃいけなかったんだよね。
いつの間にか、澤村君はネクタイをほどいて、シャツの一番上のボタンをひとつ外していた。
あれは、いかん。
セクシーすぎる。
襟元からフェロモン大放出?
意識が遠退きかけた。
「澤村君・・・・・・?」
「何?」
「私、そろそろ帰るね。」
「まだ9時じゃん。明日、仕事?」
「明日はカレンダー通りお休みなんだけど、門限がまだあってね。」
「ああ、そっか。お嬢様は大変だね。」
「この歳で何言ってるんだって感じよね。」
大学の頃から門限は変わらない。
奴は私の家が超過保護なのも知っている。
「いや、俺も娘持ったら同じようにしかねないな。」
やっぱり。
澤村君も大人になったな、こんなこと言うなんて。